特別展「蜷川実花展─虚構と現実の間に─」が、東京・上野の森美術館にて2021年9月16日(木)から11月14日(日)まで開催される。
独特な色彩感覚と世界観で知られるアーティスト、蜷川実花。2001年には木村伊兵衛写真賞を受賞し、写真家として国内外で高い評価を得るばかりでなく、『ヘルタースケルター』『人間失格 太宰治と3人の女たち』『Diner ダイナー』といった映画や、ファッションブランドのM / mika ninagawa(エム / ミカ ニナガワ)を手がけるなど、幅広い活動を展開している。
特別展「蜷川実花展─虚構と現実の間に─」は、2018年にスタートし、全国10会場を巡回してきた大規模個展。これまでの会場と同様、蜷川の写真作品を「虚構と現実」をテーマに展示するとともに、新たな写真、映像、インスタレーションも多数追加し、巡回展の集大成となる展示を展開する。
蜷川の写真作品を次々と映しだす10のスクリーンに始まり、足を踏み入れることになるのは、色鮮やかに花を撮影した「Blooming Emotions」の空間。蜷川が撮影する生花は、自然のなかにあるがままに咲いている花ではなく、誰かに向けて育てられた花だ。花は、自然においては昆虫の目を引きつけるためのものだが、人間社会では人びとの暮らしに多彩な豊かさをもたらすものとなった。同シリーズでは、蜷川がその時々に感じる情感とともに、人に寄り添う花の姿を捉えている。
たとえば、蜷川が「死ぬ間際にも見たい」と語る桜の花。新作を中心に、さまざまな桜の花を捉えた作品に囲まれる空間が展開される。
続く通路では、色鮮やかな花の写真をまとめて展示。クローズアップして細部まで捉えたもの、画面いっぱいに花が咲き乱れるもの、ブレやぼかしが絶妙な臨場感を生みだすもの、あるいは青空や暗がりの背景と色彩のコントラストをなすものなど、艶やかな花の色彩世界を堪能できる空間となっている。
「Imaginary Garden」は、花を被写体とする点では「Blooming Emotions」と似ているが、生花ではなく造花や人工的に色をつけた花を写したシリーズだ。そこには、自然ありのままのみならず、人工物や、ものに込められた人の欲望まで含めて、世界に存在する美しさと向き合うという思いが込められている。本展では、展示室全体を使用しており、花の色彩に溺れるかのような体験へと誘ってくれそうだ。
蜷川が「日常」をテーマに作品を手がけたのは、2017年に出版された『うつくしい日々』が初めてのこと。これに続いて日常を題材としたのが、自身が生まれ育った東京を捉えた「TOKYO」である。「写ルンです」を用いて撮影された同シリーズには、身近な世界から都市を構成する骨格までが写しだされる。そこには、アスファルトやコンクリート、ガラス、ネオンサイン、そしてそれらによって切り取られる空が、時間や天候の移ろいとともにその表情を変えてゆく様子を見ることができる。
一方で「うつくしい日々」は、蜷川の父・幸雄が病に倒れ、ゆるやかに死へと向かう1年半の日常を撮影した作品から構成される。蜷川の作品集としては初めて、写真に加えてテキストからなる同作の構成を反映して、会場では、柔らかな光が印象的な写真作品を、蜷川の言葉とともに紹介している。