ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)の2025年春夏コレクションが、2024年8月27日(火)、東京の国立新美術館にて発表された。テーマは「BUT THE IDEA, THE ESSENCE OF THINGS」。ショーは、ロシア出身の作曲家・ピアニスト、キリル・リヒター(Kirill Richter)の演奏のもとに行われた。
衣服をまとうこと。削ぎ落とした先に立ち現れるその本質とは何だろう──今季のハルノブムラタにとって、その問いかけに答えるよすがとなったのが、20世紀を代表する彫刻家のひとり、コンスタンティン・ブランクーシであった。研ぎ澄まされたフォルム、時にアフリカ彫刻といった非西欧の芸術にも通ずる、その野生的な造形によって、ブランクーシは物そのものの概念を抉りだすことを試みたのであった。
デザイナーの村田晴信は、2024年秋冬シーズン、装いをミニマルに切り詰めることを通じて、むしろそれをまとう人間の温かみを浮かびあがらせようとした。翻って今季は、ブランクーシの彫刻のごとく極度に研ぎ澄まされた造形によって、人間のフォルムのエッセンス、そして身体が時間のなかで織りなす動きを引きだすことを試みるものであったといえる。なぜならブランクーシの彫刻とは、それがどれほど単純な形態であっても、人間の頭部や鳥といった対象物の形から完全に離れることがなく、そこに物の本質を捉えるという抽象化が働いているからだ。
たとえば、ドレス。流れるような素材感のドレスは、ショルダーやボディなどにギャザーを寄せ、そのフォルムを固化することで、衣服自体の造形と身体のフォルムの緊張を際立てる。フロントからバックにかけて、丈感に差をつけたベアトップドレスでは、ヘムを激しく波打つ曲線で仕上げ、ダイナミックな躍動感を示す。あるいはシアーなロングドレスやナイロンのロングコートであれば、風になびいて身体にふわりとまとわり、そのシルエットを官能的に浮かびあがらせるのである。
彫刻のエッセンスが、空間に立体的な造形が位置することだとするならば、衣服とは、ファブシックという平面が立体と化し、身体との関係をとり持つことである。平面から立体へ。言葉にするとささやかなこのプロセスに立ち現れるのが、布を折り曲げ、あるいは襞を織りなすことでなくて何であろう。
平面を立体へと転換するこのささやかな操作が、優美な造形を織りなす──今季のハルノブムラタには、こうした例を幾つも見出すことができる。そこでは、ある種の素朴さ、野生性が、優美さへと昇華されているのだ。たとえば、円形を思わせるファブリックを、身体を横から包み込むようにして仕立てた、アシンメトリックなドレス。ミニマルなシルエットにギャザーを寄せることで、身体のシルエットを浮かび上がらせるドレス。何より、全身をラッフルでくまなく覆い尽くしたノースリーブドレスは、襞を作るという操作を徹底することで身体の形を織りなす、極限的な例だといえるだろう。
ところで、衣服と身体が織りなす造形、その一瞬を、衣服を通して捉えること──それはきっと、彫刻とパラレルなことなのだろう──は、今季のハルノブムラタの関心のひとつであった。こうした時間性は、色彩においても追求される、ブラックやホワイト、ベージュ、レッドなど、モノクロームを軸としたコレクションのなかで、ふとさし挟まれるグラデーション──ノーカラージャケットやトップスなどには、銀箔を硫化させて七色の色彩を織りなす「焼箔」の技法、その色彩の変化が生ずる時間の経過を、ファブリックへとおき留めている。