展覧会「私たちは何者? ボーダレス・ドールズ」が、東京の渋谷区立松濤美術館にて、2023年7月1日(土)から8月27日(日)まで開催される。
日本の人形は、雛人形や呪い人形、生人形、フィギュア、マネキンなど、体系的に捉えることが難しいほどに多様な種類にわたっている。そしてその歴史をひもとけば、民俗、考古、工芸、彫刻、玩具、あるいは現代美術と、人形はさまざまなジャンルを自在に超えつつ展開してきたことがわかる。
展覧会「私たちは何者? ボーダレス・ドールズ」は、このように日本の人形が示す複雑な様相を、「芸術」という枠だけで捉えることなく、その多様性に着目して紹介。日本の立体造形に底流してきた精神に光をあてるとともに、人形を通して「芸術」という概念そのものについても考えてゆく。
本展では、平安時代の呪具・人形代(ひとかたしろ)から雛人形、商業の場で用いられてきたマネキン、そして村上隆や四谷シモンといった現代作家による人形まで、さまざまな人形を紹介。たとえば雛人形は、貴族・公家社会の年中行事のなかで、子どもの健康を願うとともに、社会の規範を子どもに教えるためにも使われてきた。会場の序盤では、このように社会に組み込まれ、社会の「あるべき姿」を具現化することを試みた人形に着目し、雛人形や武者人形などを展示する。
明治時代の日本では、欧米諸国に比肩すべく西欧の技術や制度を取り入れ、近代化を推進した。「美術」、そして「彫刻」という概念が日本にもたらされたのも、この過程においてである。上述の雛人形といった人形は、江戸時代までは人びとの生活のなかに溶け込んでいたものの、明治時代に「美術」としての「彫刻」が育まれてゆくにつれ、人形は「彫刻」の範囲から外れてゆくこととなった。
しかし当時、実際には、小島与一《三人舞妓》などに見られるように、彫刻として捉えることもできる精巧な人形作品が作られている。さらに昭和時代初期には、「人形芸術運動」を背景に、人形も美術として認められるようになった。会場では、近代以降に形成された「彫刻」のなかに、なおも息づく人形の系譜を紹介するほか、昭和時代に美術作品としての人形を主張した平田郷陽(ひらた ごうよう)や堀柳女(ほり りゅうじょ)らの作品にも光をあててゆく。
人形のなかには、商業の場で用いられてきたものもある。その一例がマネキンだ。日本で初めてマネキンの国内生産に取り組んだのが、東京美術学校彫刻科で学んだ島津良蔵(しまづ りょうぞう)であり、彫刻家の荻島安二(おぎしま やすじ)と向井良吉(むかい りょうきち)とともに芸術性の高いマネキンを手がけた。本展の後半では、商業、人形、そして彫刻の要素が重なりあって生まれたマネキンに着目し、荻島や向井によるマネキンとともに、彼らが制作した彫刻作品も紹介する。
展覧会「私たちは何者? ボーダレス・ドールズ」
会期:2023年7月1日(土)~8月27日(日) 会期中に一部展示替えあり
[前期 7月1日(土)~7月30日(日) / 後期 8月1日(火)~8月27日(日)]
会場:渋谷区立松濤美術館
住所:東京都渋谷区松濤2-14-14
開館時間:10:00〜18:00(金曜日は20:00まで)
※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日:月曜日(7月17日(月・祝)は開館)、7月18日(火)
入館料:一般 1,000円(800円)、大学生 800円(640円)、高校生・60歳以上 500円(400円)、小・中学生 100円(80円)
※( )内は団体(10名以上)および渋谷区民の入館料
※土・日曜日、祝休日、夏休み期間は小・中学生無料
※金曜日は渋谷区民無料
※障がい者および付添者1名は無料
※リピーター割引:観覧日翌日以降の本展会期中、有料の入館券の半券と引き換えに、通常料金から2割引で入館可(1枚の入館券につき1回まで有効)
※出陳作品の一部は、18歳未満(高校生含む)の観覧不可
※内容は変更となる場合あり(最新情報については美術館ホームページなどにて確認のこと)
【問い合わせ先】
渋谷区立松濤美術館
TEL:03-3465-9421