もちろん今回こうして『ビール・ストリートの恋人たち』が、3部門にノミネートされたことも大変光栄に感じていますが、オスカーを獲得することを目的としていたら、カットしていたはずの台詞がいくつかありますよ。オープンな登場人物たちが「白人は悪魔だ」なんて、堂々と言い放つ台詞とかね。それでも僕がこの台詞を使用したのは、基となった原作の作品、そしてその登場人物たちの経験に対して、最大限の敬意を示したかったから。
映画制作の楽しさについて教えてください。
映画を作り始めると、その過程で“人生とは何か”というポイントのようなものに近づいていける気がするんです。暗くもなれるし、逆に楽観的にも考えることが出来る。
映画作りとは、本当に色んなことを僕に与え続けてくれんですよ。だから僕は吸血鬼のように、どんどん生産し続けていかないといけない。僕がこの世界で本当に意味があると思える数少ないものの1つですからね。
けれど実をいうと、僕は話をすることと映画を作ること以外、本当に何もできないんです。映画作りは本当に最高だけれど、それ以外のことはほとんど苦手なんですよ。あ、美味しいコーヒーを淹れるという特技は抜かしてね(笑)
制作意欲を突き動かす最大のモチベーションとは何でしょう?
僕にとっての最大のモチベーションとは、こうした映画制作を通して、これまで出会うはずがなかったあなた達のような方々と話すことが出来ることなのかもしれません。僕は、『ムーンライト』に描かれているような本当に小さなコミュニティで生まれ育って、何か大きなことを人生で成し遂げるチャンスも得られない環境に置かれていたのだから。
僕は幸運にも映画を作ることが出来た。そしてそれが僕の世界を広げる扉となって、今はこうして東京で様々な人々と繋がることが出来ているんですよ。
映画とはあなたにとってどのようなものですか?
それはずっと考えていることでもあるのだけれど、正直答えを探し出せていないのです。
僕の人生のあらゆるターニングポイントで、映画は異なる意味を含んでいるからです。僕が子供の頃は、映画は本当にワクワクさせてくれる特別な存在だった。そしてやがて学校で映画を作り始めた頃は、いわば映画は僕の世界の中心になったんです。
そして今、こうして映画を世に発信したことで、世界中を旅することが出来ている。東京に来れるなんて一生できるわけがないと思っていたけれど、僕の作品に引き込まれてくれた人がいたお陰で、こうして映画が僕を色んな人や場所へと結び付けてくれているんです。
つまりは映画とは、人生の中で人と人とを繋げてくれる手段なのかもしれません。最近は、インターネットの普及で、世界がどんどん狭くなっていって、お互い簡単に連絡が取りあえるのに、何故か僕らは人との距離をとろうとしているよね。そんな世の中で、この映画というのは、人と人とを結ぶ数少ない手段だと感じるのです。
作品情報
映画『ビール・ストリートの恋人たち』
原題:If Beale Street Could Talk
公開日:2019年2月22日(金)
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
出演:キキ・レイン、ステファン・ジェームスほか