現代社会に作品やその存在を通じて、強烈なインパクトを与えているChim↑Pom。3月11日の震災以降の彼らは、その持ち味である大胆さをより一層増したかのようだ。岡本太郎の壁画《明日の神話》に新たにキノコ雲と福島第一原子力発電所を描いたキャンバスを付け加えるパフォーマンス「Level7 feat.明日への神話」など、議論を巻き起こすアーティストとしてのアクションには、社会へのインパクト以上に社会問題を自分たちの問題と捉えたメッセージが込められている。日本のみならず、アジア、そして世界からの注目度も高いChim↑Pomが作品を通じて社会に何を伝えようとしているのか。彼らの信じるアートの力とは何か。彼らを突き動かす原動力に迫った。
左)Chim↑Pomメンバー・エリィ、右)リーダー・卯城竜太
講座では、東京のカラスを渋谷や新宿の空にたくさん集めた映像作品「Black of Death」や、震災直後の福島の若者達を集めて瓦礫のすぐ側で円陣を組みながら言葉を交互に掛け合う「気合い100連発」といった彼らの映像作品、そして社会に問題を問いかけるフランスのストリート・アーティストJRなど世界各国の作家たちの衝撃的な作品の数々を紹介。
このような作品は時には違法であると罰せられたり、無意味な攻撃として片付けられがち。しかし、世の中に不正義や矛盾、苦しみが溢れているにも関わらずその現状を解決することができない行き詰まった状況に目を逸らさず立ち向かおうと呼びかける強いメッセージ性は、作品や活動の衝撃性があるからこそ成し得るもの。Chim↑Pomメンバーのエリィは、日常で起きている出来事や問題にリアクションすること、そしてその自分なりの考えを他者に伝え合うコミュニケーションの必要性を受講者たちに訴えていた。
「なにかできること、ひとつ。」をテーマに様々な活動を続ける「TAKE ACTION FOUNDATION」を通して、積極的に新しい価値発信を続ける中田。そのプロジェクトのひとつとして始まった「REVALUE NIPPON PROJECT」は日本の伝統・文化をより多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、伝統文化の継承・発展を促すことを目的として、気鋭の工芸作家とアーティストやクリエイターのコラボレーションで作品を生み出している。今回は、「REVALUE NIPPON PROJECT」2011年メンバーであるアーティスト栗林隆、森美術館館長南條史生と中田の3人が、現在進行形のプロジェクトについて語り、さらに世界を知る彼らの視点から見た、これからの日本がつないでいくべき伝統・文化、そして新しい価値創造について語った。
六本木アートカレッジのラストを飾るこの講座では、サブ会場としてサテライト会場も用意されたにもかかわらず超満員になるほどの人気を見せ、注目度の高さが窺えた。話題の中心となったのは、今年三人が関わった作品「Erde(エルデ) 2011」。この作品は、「TAKE ACTION FOUNDATION」の2011年のプロジェクトテーマ「和紙」を使って、制作された直径約1.6mの、大陸や山々の凹凸を再現した巨大でイノセントな印象の地球。アドバイザー南條のもと、昨年森美術館で開催された「ネイチャー・センス展」に作品を出展した栗林が徳島の和紙工芸家・藤森洋一と協力。和紙を切り取らずに木製の型を内側から取り除く方法で作るために、多大な労力を費やした「Erde 2011」は、伝統文化の継承・発展を促すことを目的としたイベント"TAKE ACTION CHARITY GALA 2011 with Lenovo"でオークションにかけられ、無事競り落とされた。このオークションの収益は来年度以降の活動費として、伝統文化の魅力を多くの人に伝えるプロジェクトの継続と深く繋がっている。完成が締め切りに間に合わないと危ぶまれていたことなど、ここでしか聞けない制作の裏話も飛び出した。
栗林は受講生に向かって、「自分が信じることを追求すること。そして継続することでカタチとなって繋がってゆく」と話し、アートにとどまらず信念の強さと行動を継続していくことの大切さを訴えた。日本の伝統工芸そのものや作家に対する興味・関心を広めたいという想いや、プロジェクトをきっかけに新たな人のつながりが生まれることの喜びや地域活性化の新たな可能性を熱く語る3人に、受講者たちからの質問が相次ぐ活気ある講座となった。
この日は講義だけではなく、場所の魅力や特徴を活かして、居合わせた人や状況を巻き込み巻き込まれながら、その時その場でしか起こりえないダンスを展開する「ほうほう堂」のダンスパフォーマンスや、プロフェッショナルを目指す若手演奏家を対象に、その成長と成熟を図ることを目的とした「サントリーホール室内楽アカデミー」からヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを奏でる3人の演奏家によるプログラムも開催。モーツァルトの楽曲を演奏し、受講者たちの五感を楽しませていた。
左より)ヴァイオリン:鈴木慶子、チェロ:パク・ヒョナ、ヴィオラ:鶴 友見
アート“カレッジ”というだけあって、受講者の姿勢は真剣そのもの。普段なかなか会うことのできない講師陣から直接発せられた心に響く言葉や、自分の考えをノートに懸命に書きとめる姿が多く見られた。アートの存在を意識することのない普段の生活の中でも、暮らしの中で自分が現実をどう考え、アクションを起こしていくか。その過程こそがアートそのものであるという事実に気づかされ、また美術館などの場所で見るもの、敷居の高いものといったアートに対する思い込みを覆されたエキサイティングな一日だった。
Text by Minami Sato