12日(土)の現地時間で21時にITSの授賞式が行われた。満員の会場が明るくなり、ファッション部門ファイナリストたちの作品を着たモデルがランウェイに現れる。
昨日のプレゼンテーションとは全く異なる雰囲気を纏ったモデルたちがウォーキングするさまはコレクションの発表さながら。そして、ファッション部門のランウェイが終わると、いよいよ授賞式。次々と日本人が賞を受賞する様は、周りに驚きを与えていた。
武田麻衣子(Maiko Takeda)はアクセサリー部門ヴォーグ タレント賞を受賞。輪郭が曖昧なものを纏うためにはどうしたらいいか、雲みたいなものを着たらどうなるだろうか、というアイデアから制作されたヘッドギア。その透明感あふれる未来的な美しさは、2012年に聞いたフィリップ・グラス(アメリカ合衆国の作曲家)のオペラ『浜辺のアインシュタイン』からインスピレーションを得ている。
木村康人はファッション部門ショースタジオ賞を受賞。毎朝の地下鉄の通勤で見かける、家族のために働き続けるサラリーマンからインスピレーションを得てコレクションを制作。本来ネガティブな光景である、通勤ラッシュ時のサラリーマンをデザインの力でポジティブなものに変換できないか挑戦。
中里周子はジュエリー部門のグランプリであるスワロフスキー賞を受賞。日本が世界のテクノロジーを牽引していた1980年代に新しい視点を当てることを意図したアクセサリーを制作。着るものをウキウキさせるような、奇抜で突飛な、だけど日本人ならではの懐かしく古めかしいデザインのアクセサリーが評価された。
そして、荒井貴文(Takafumi Arai)はアクセサリー部門YKK特別賞を受賞。彼の作品は、母親が家族のために行ったパッチワークからインスピレーションを得ている。母がミシンを使わず家族のために服の手直しをした跡は、あまり美しいものとは言えなかったが、"母の手で縫われた跡"に、彼は愛情を感じ、同じ想いを靴の制作の時に込めたそうだ。
授賞式の最後は、ITS 2014年のファッション部門のグランプリの発表。見事グランプリを勝ち取ったのはキャサリン・ロバートウッド(Katherine Roberts-Wood)。彼女のコレクションのテーマは「 Synch (同調)」。最大の特徴はレーザーカッターで作られた立体的なシルエット。モデルが歩くたびにに揺れる服は、観客の目を引いた。
ディーゼル賞は、ゾーイ・ウォーターズ(Zoe Waters)が受賞。コレクションのテーマは「Obnoxious(不快)」。レザーのバイカージャケットをベースにボックスの構造を服に取り入れ、オーバーサイズ、そして重々しいレイヤーで不快感をシルエットで表現した。
クライマックスはファイナリスト全員のウォーキング。会場はファイナリスト・受賞者に向けて盛大な拍手を送り、ITS 2014は大成功に終わった。
最後に載せるのは、ITS審査員でもあり、ディーゼルのアーティスティック・ディレクターでもあるニコラ・フォルミケッティ(Nicola Formichetti)のインタビュー。インタビューは意外な形で幕を開けた。質問より先に、二コラの突然の切り出しによって話が始まったのだ。
「ITSはどう思う?僕はいくつか気になっている点があるんです」
二コラは次のように続ける。
「今回、アントワープ王立芸術アカデミーから何人のファイナリストが出たと思いますか?0人です。世界最高峰のファッションの大学から、実は1人も選ばれていない。セントラル セント マーチンズ カレッジ オブ アート アンド デザインでさえ、1人。そういった有名校からファイナリストが出ていないにも関わらず、日本からは8人も出ています。これは、日本人のクリエイティブが世界に対して大いに通用していることを意味しています。だからこそ日本人は、もっともっと頑張らないといけない」
これは最近の日本のファッションに言えることですが、賞を獲ってから、ブランドを確立したり、世界的に活躍している日本人が少ない。賞を獲ってから先が続かないんです。でも、それはデザイナーだけの責任だけではない。取り巻く環境もあるし、ファッション業界はそういう教育をしていかなければならない。だから、もっと日本人は頑張らなければならないと思いました。
それを考えるには、日本人としてのポジティブとネガティブな部分を考えてからのほうがいいと思います。まず、ポジティブな面は、センスがいい、創造性がある、独特の世界観、夢がある点。ネガティブな部分は英語ができないことと、シャイなところです。特に英語ができないのは大問題。世界のファッション業界で英語ができないと、どこにいっても笑いものになります。そして、自分の思っていることを言えないこともマイナスです。つまり、モノづくりに専念して、モノづくりと同じくらい大切なコミュニケーションを疎かにしている。だから、日本人はとてももったいない。世界ではどっちもできる人が活躍するからです。日本人が"英語"と"上手く自分を表現すること"を克服すれば、もっと面白くなると思います。
僕が今回ITSに参加している人たちと同じくらいの時、そう25歳くらいまでは何もやっていなかった。毎日遊んでいました。でも、”このままじゃヤバい”とも思って。つまりファッションを始めるのは、とても遅かったんです。だから、今コレクションを作っていたり、自分のブランドを作っている人たちは本当に素晴らしいと思います。日本人はセンスがあるし、努力をする、いいものも作る。”ファッション”センスは申し分ないので、自分に対して、『シャイにならない』、『英語を勉強する』、『自分の言いたいことを表現する』。そこを頑張ってほしいです。そうしたら、世界で一番になれると思います。
デザイナーになるために一番大切にしてきたこと、そして大切なことは”他の人に対して、もちろん自分にとってポジティブでナイスでなければならない”こと。それは気取ってたり、高飛車だったり、嫌味な人間だと、物事は絶対に上手くいかないということです。日本人は1人でモノづくりをしようとするけれど、ファッションは一人で作るものではありません。チームワーク。チームで何かをするとき、気取ってたり、高飛車だったり、嫌味な人間だと人はついてこないし、一緒にやろうと思わない。だから、デザイナーはみんなにポジティブでナイスでなければならないのです。すごくシンプルだけど、一番大切なことだと思っています。
【コンテスト概要】
ITS 2014
日程:2014年7月11日(金)、12日(土)
場所:イタリア・トリエステ Salone degli Incanti
URL:http://www.diesel.co.jp/news/its-2014-diesel-award/