欧州最大のファッションコンテスト「ITS(イッツ=International Talent Support)」が2014年7月11日(金)、12日(土)に、イタリア北部にあるトリエステで開催された。約80カ国から寄せられた、1,200以上もの応募から選ばれた40組のファイナリストたちは、今年のテーマである、“LUCID DREAMS”「明晰夢(めいせきむ)」のもと、それぞれのクリエイティビティを発揮することになる。
トリエステがコンテストの開催地になっているのには理由がある。「まだ商業的にもファッション的にも手垢がついていない美しい街で、若い才能を世界に羽ばたかせたい」という、主催者バーバラ・フランキンの信条からだ。会場はかつてフィッシュマーケットだった場所を貸し切り、ITSのために特別な内装を施した。ファイナリストは、ここで世界に挑戦する。
審査員には、ディーゼルのアーティスティック・ディレクター ニコラ・フォルミケッティをはじめ、ファッションアイコンのアンジェロ・フラッカベント、ブロガーのスージー・バブル、ITSの主催者であるバーバラ・フランキンたち。
マルニのデザイナーコンスエロ・カスティリオーニも審査員として参加している。
プレゼンテーションの時間がやってくると、デザイナーとモデルが扉から現れた。
デザイナーは用意してきたコンセプトを口頭で説明。その間に、モデルは審査員の前で一体ずつウォーキングしてコレクションを披露する。
審査員は気になる部分があるとモデルを止めて、縫製の仕方や服の素材、袖の裏などのディテールを細かく確認していく。
ITSの特徴の一つに英語でプレゼンテーションしなければならないという規則がある。コンテストの主催者側が、世界に通用するような若手デザイナーを輩出したいからだ。この規則は、自分の意思を的確に伝える手段として英語が世界的に重要であることも意味している。
そして、今回のファイナリストの中で最も注目なのが、東京造形大学出身の木村康人。
彼は、日本のハードワークを強いられるビジネスマンからインスピレーションを得て、コレクションを制作。家族のために、身を削りながらでも頑張る父親への尊敬の念が込められたコレクションは、プレゼンテーションを飛び越えて、審査員全員の視線を釘付けにした。
サラリーマンの戦闘服であるグレーの"スーツ"を基本に、激しく変形させたジャケット・マスクを着用したモデルが登場。バッグとスーツが一体化している後姿は、毎日を激務で過ごす父親の内心を表しているようで、心に訴えてくるものがある。
審査員である二コラのアドバイスで広げたストールには、日本の新聞をプリント。日本の父親像を想起させるようなユーモアあるアイテムが、観客や審査員の笑いを誘っていた。コレクションを見るだけでコンセプトの本質まで理解できるほどのクリエイションを表現し、プレゼンテーションは終了。全員の盛大な拍手とともに退場した。
そして、夜になるとアクセサリー、ジュエリー、アートワーク部門の展示が開催された。夜の会場は昼間の面影を消し去るように、ファッショナブルなものに変身。
いたるところに作品が展示され、手に触れながらそれぞれの作品を鑑賞できる。
会場では、作者がコレクションを来客に紹介・説明する姿が見られた。そこではファッション業界の関係者と交友関係も築ける場でもある。
桑沢デザイン研究所出身の荒井貴文の周りには、ディーゼルの創始者兼社長レンツォ・ロッソとディーゼルのアーティスティック・ディレクターである二コラが来て作品を鑑賞。実際に世界で活躍するデザイナーの意見を貰えるなど貴重な体験ができるのもITSならでは。ディーゼルは、このコンテストのファッション部門のサポートをしている。
一通り鑑賞が終わると、ヴェルニサージュ(オープニング・パーティー)が始まった。会場に来た人とこの場で知り合いになったり、美味しいお酒を楽しんだり、自分の作品を見に来てくれた人に感謝の気持ちを伝えたり、それぞれの時間の使い方があるのがヴェルニサージュの醍醐味。
夜も更けて12時をまわったが、パーティーはまだ終わらない。ファッション業界の"これから"を担う人たちが集まる場所は、エネルギッシュでポジティブな雰囲気に包まれていた。
そんなITSもいよいよ明日、グランプリ、およびディーゼル賞などの各部門賞が決定する!