ザ・リラクス(THE RERACS)の2023年春夏コレクションが発表された。
20世紀前半のフランスを代表する知性と称された詩人・批評家に、ポール・ヴァレリーがいる。その澄みきった思考により「地中海的な明晰さ」とも形容されたヴァレリーは、しかし、強烈な「感性の人」でもあった──知性はいわば感性の波瀾を覆う一方、そこには鋭敏にすぎる官能的感受性が波打つように底流していたのだ。ヴァレリーの作品は、したがって、透明な知性と繊細な感性の相克を示している。
些か冗長にヴァレリーへと言及したのは、今季のザ・リラクスが、いわば知性と感性の相克、構築性と表現性の張り詰めた緊張に特徴付けられるように思われるからだ。クリーンな雰囲気のウェアは、澄みきった構築性に基づいている。たとえばテーラードジャケットは、やや余裕を持たせたセットインショルダーに設定し、裾や袖は重さに任せてすっと落ちる直線的なシルエット。ここには、布地という平面を身体に呼応する立体へと仕立てあげ、しかしウェアそれ自体として平面を強調するという、二重の構築的な視線が交わっている。
クリーンな構築性のベースとなる素材は、最高級の天然繊維、機能性が上品な佇まいを生む化学繊維、そして天然繊維の欠点を化学繊維によって補うハイブリッドの3種類を軸としている。トーマス メイソン(THOMAS MASON)のコットンを用いたシャツは、良質な素材を引き立てるクラシカルな仕立てに。カーゴパンツには、シワになりにくいポリエステルを採用し、ドレープ感と相まって上品な表情を。あるいはデニムのジャケットやシャツ、スラックスは、セルロース繊維「KUURA」を用いた独自素材を採用し、その軽やかさと柔らかさを活かしてエレガントに仕上げた。
クリーンなウェアは、しかしその緊密さゆえにいっそう、かすかなニュアンスを通じて豊かな階調をあらわす。今季のザ・リラクスは「トーン(Tone)」をキーワードに、いわば「ミニマルにまとめすぎない」表現性を引き出している。たとえばジャケットとパンツは同じ素材のセットアップとせず、ジャケットにはバラシャを、パンツには軽快なギャバジンを用い、同じ色合いでありながらも繊細なニュアンスを示す。
配色においては、深みのあるネイビーを基調としたエプロンドレス、ロングジレ、スカート、あるいはトップスには、ブラウンのウルトラスエードを組み合わせることで、静謐なコントラストを表現。コレクション全体でも、ブラックやホワイト、グレー、ネイビーといったベーシックカラーを中心としつつ、軽快なライトブルーや深みのあるマルーンを随所に用い、コーディネートにニュアンスを加えている。
張り詰めたミニマルさを唐突に破るウルトラスエードに見るように、今季のザ・リラクスはディテールにおける表現性を取り入れる。これもまた、今季のもうひとつのキーワード「ノーリーズン(No Reason)」に象徴される感性的な側面だ。たとえばウィメンズにおける、半円形の襟を思わせるフラップディテール。カーディガンのように気軽に着用できるショート丈ブルゾンや、チェック柄のノースリーブワンピース、スリーブにボリュームを持たせたブラウスなどにこのディテールを加え、ショルダーに力強いアクセントを施した。