2022年5月20日(金)公開の映画『大河への道』で主演を務める中井貴一、共演の北川景子にインタビュー。
映画『大河への道』は、立川志の輔の新作落語「大河への道-伊能忠敬物語-」を原作とする“歴史発見”エンタメ作品。前途多難な大河ドラマ実現を描く“現代の喜劇”と、200年前の日本地図完成に隠された感動秘話を描く“時代ミステリー”が交錯する構成で、二つの時代の登場人物を中井貴一、北川景子らが一人二役で演じ分ける。
主演を務める中井貴一が自ら企画したという、映画『大河への道』。映画化には、“時代劇を後世にも残したい”という、強い想いがあった。その願いは、共演の北川景子も同じ。2人が、どのような想いで作品を作り上げたのかに迫った。
・映画『大河への道』は、どのようなきっかけで誕生したのでしょうか?
中井:「数少なくなった時代劇を、日本の文化、伝統として残したい」という思いを抱いている時に、映画『大河への道』の原作である立川志の輔さんの新作落語「大河への道-伊能忠敬物語-」に出会いました。この落語を映像化したなら、新しい形の時代劇が作れるかもしれない。そう思い、志の輔さんに映画化を直談判しに行きました。
・現代の日本において、時代劇を見る機会が少なくなっている、という問題意識があったのですね。
中井:特にテレビという媒体においては、時代劇を見る機会が少なくなっていると感じます。海外に目を向けてみると、例えば中国、韓国、そしてアメリカにしても、いまだに時代劇というか、歴史物がしっかりとした形で作り続けられている。日本でも、時代劇に興味を持つ人が再び増えるように、何かきっかけを作りたいと試行錯誤しています。
・時代劇を、もう一度盛り上げていきたいのですね。
中井:そうですね。時代劇が一度無くなってしまうと、再興するのはなかなか難しいものです。時代劇という産業を担っている職人さんたちの技術も、途絶えてしまいますから。結髪さんや、かつらを着けたりする床山(とこやま)さん、それから衣装や小道具、美術を作るプロの方たちは、熟練の職人から若手へと口伝いで技術を継承しているわけですが、この伝統も途絶えてしまう。
北川:私も、この文化が途絶えないように、時代劇や歴史作品に積極的に参加したいなと思っています。私自身は「水戸黄門」などをテレビで見てきた世代で、デビューする前から時代劇が大好きです。時代劇が日常に存在していた時代を知っているので、無くなってほしくないと強く思いますね。
・北川さんも、時代劇の現状に問題意識をお持ちなのですね。
北川:そうですね。でも、どうしたら時代劇を見てもらえるんだろう?ということの答えは出せずにいます。なんとかして、時代劇を残していきたいですね。
中井:この映画『大河への道』は、「こういう時代劇の形なら、お客さんたちに足を運んでもらえますか?」という一つの提案と捉えてもらいたいのです。
・時代劇を後世に残すために、『大河への道』にはどのような工夫を施したのでしょうか。
中井:お客さんに気軽に時代劇を見てもらうため、いろんな要素を盛り込まなければと思っていました。その点では、志の輔さんの原作落語が、とても素晴らしいものだったんです。現代と過去を行き来する構成で、ストーリーが違和感なくすっと胸に落ちてくる。それから、伝統的な時代劇にある悲劇的要素と、気楽に観れる喜劇的要素を、無理なく盛り込んでいる。
また、映像化する上では、さらにミステリアス感やサスペンス要素をつけ加えるという作業もしました。
・伝統的な時代劇は「悪いものは必ず成敗される」という勧善懲悪の世界観が一般的ですが、『大河への道』は、最後まで結末が分からないミステリー仕立てになっています。
中井:特に時代劇のシーンは、サスペンスのようなドキドキ感を味わってもらえるかなと。西村まさ彦さん演じる神田三郎が、事の真相に迫っていくような展開になっています。
北川:私が時代劇のシーンで演じたエイという役自体も、ミステリアスなキャラクターでした。伊能忠敬のかつての妻とされている人物なのですが、ふわふわとしていて、どこかフェアリーな印象を感じました。物語の鍵を握っている人物なので、映画を見た方には「エイって結局、どういう人物だったんだろう?どんな役割があったんだろう?」と、それぞれの自由な解釈で楽しんでもらいたいです。
・キャストが全員一人二役を演じている点も、『大河への道』の見どころの一つです。この配役には、どのような意図があったのでしょうか。
中井:「今も昔も、人間の本質は根本的には変わらないんだ」ということを伝えるために一人二役をお願いしました。僕たちが歴史を振り返って「あの人は偉人だ」と言っている人は、当時は「自分は偉人だ」なんて思っていないかもしれない。歴史上の偉人たちも、今を生きている自分たちと、本質的にはあまり変わらないと思うんです。
歴史というものは、今を生きている人間たちが、それぞれの自由解釈で創り出していくもの。教科書で習わなかった驚くべき真実、その時代を必死で生きていた人たちからうかがい知れる“歴史のロマン” というものを感じていただきたいです。
・学校の授業では習わなかった伊能忠敬の物語を知ることができるのも、『大河への道』の魅力ですね。
中井:日本人が時代劇を見なくなっている理由の一つとして、学校の授業で、歴史のロマンを伝えることができていない、ということがあるかもしれません。「良い国作ろう鎌倉幕府」のように年号を丸暗記させるのではなく、例えばそれぞれの子供たちが興味を持つ人物を掘り下げていくような授業に変えてみる。そうすることで、もしかしたら歴史に興味を持ち、時代劇を見る若者たちも増えるのかもしれません。
・映画界においては、ミステリー仕立て、コメディタッチ、アクション作品…など、『大河への道』のように“新しい形”の時代劇も増えてきているような気がします。今後のエンタメ界において、時代劇の“理想の形”があるとすれば、どのようなものでしょうか?
中井:理想形は“お客さんが見てくれるもの”、ですよね。僕たちが一生懸命提案しても、お客さんが見てくれなければ、それは理想の形ではないわけです。それが僕たちの仕事のつらいところでもあるんですけれど…。
ただ、新しい時代劇が出てきたとしても、僕が一つだけ大切にしたいと思っているのは、その時代を生きていた人たちの日常的な所作です。