フット ザ コーチャー(FOOT THE COACHER)や、フットストック・オリジナルズ(FOOTSTOCK ORIGINALS)といったブランドを手掛けるシューズデザイナー・竹ヶ原敏之介にインタビュー。
2019年9月に三陽山長(Sanyo Yamacho)とタッグを組んだ新ライン「エックスライン(EX-LINE)」を立ち上げたばかりの竹ヶ原に、新ライン立ち上げの経緯や背景について話を聞いた。
また、靴作りにおいて大切にしているプロセスや、デザインの過程で重視していること、クリエーションへの思いにも言及。経験や自身の考え踏まえて語られる話の随所に、靴作りへの一貫した姿勢と、確固たる信念が感じられた。
新ラインのエックスライン立ち上げの経緯を教えてください。
オファーをいただいて色々とお話をお伺いするなかで、靴に対する考え方に共通点を感じ、魅力的だったので引き受けることにしました。
三陽山長のどういう点が魅力だと感じましたか。
まず靴の伝統技術や手仕事を大切にし、古き良き製法にこだわりを持って取り組んでいるところです。効率ばかりを追って画一的なものを作るのではなく、そういったスタイルを保ち続けることに気概やプライドを感じました。あとは、三陽山長の靴の醸し出す色気みたいなところも良いなと思いました。
タッグを組むにあたって意識したことは何ですか。
元々ある三陽山長ブランドの中でいかに自分の要素を融合できるかということ。三陽山長が培ってきたものを壊さずに、何か既成概念を超えるような靴作りができないか、ということを意識しました。
デビューコレクションのデザインにあたり、どのようなテーマを意識されていたのでしょうか。
デビューコレクションで最初に浮かんだワードは「消費社会からの離脱」でした。三陽山長のラインナップを見たときに、需要はスーツスタイルや礼装、ビジネスシーンといった、いわゆる「ON」のオケージョンだと感じました。全体を通して足りないもの、自分がやるべきデザインはそこからポジティブに離脱する手助けになるものだと想定しました。
自らが消耗してしまうような何かからの脱却ということでしょうか。
近いですね。「ON」の場に適した靴はすでに展開されていましたから、それに反した衝動的行動や、対峙する瞬間に履いていて欲しいというイメージですかね。なので、絶対に脆くてはいけない、ということも意識しました。休日にはこの靴といった感じの生ぬるいものではなく、若干の緊張感は持たせたかった。最終的には「ALL ROUNDER」というだいぶマイルドにコーティングされたテーマにはなっているのですが。
表向きはマイルドだけれども、内には強い主張を秘めているのですね。
そうですね、そこは自分のブランドではないのでそのままというわけにはいかず、個人的なアティチュードに抑えました。既存のブランディングなどを考慮して、最終的には「ALL ROUNDER」というテーマでデザイン、PR等を組み上げていきました。街からアウトドアまで路面を選ばず履けるタフな靴、といった具合の現在のコンセプトですね。
ディテールで言うと、具体的にこだわったポイントは何ですか。
色々ありますがソールは特にこだわりました。イタリアのヴィブラム社との取り組みを前提に企画を起こしたので、今回のモデルに関しては必須要素でした。
ソール開発にあたり、ヴィブラム社とはどのようなやりとりをされたのですか。
デザインや配合を細かく相談しながら進行しました。ヴィブラム社は歴史も長く品質も確かな分、レギュレーションが厳しく、たとえばロゴの入れ方ひとつにしても細かい制約がありました。
まずは企画の趣旨から説明し、設計図面を何度も修正してプレゼンしました。“出禁になるんじゃないかな”と思うくらい無理を言い過ぎたのですが(笑)、既成のレギュレーションを超えた理想的なソールが完成したので、本当に感謝しています。
エックスラインデビューコレクションのソールには、アスファルトからラフグラウンドまで幅広く適応可能な「SUPER STUD」を採用。都市環境の様々な路面状況を想定して開発された「SUPER STUD」には、全面にラバースタッズがあしらわれており、をしっかりと掴めるようになっている。また、ヒール部分には摩耗に強くグリップ性に優れた「VIBRAM DURATREK」が用いられている。
三陽山長のものづくりの姿勢に共感した、というお話がありましたが、ご自身の海外の経験と照らし合わせた時に、日本ならではのものづくりの魅力はどういうところにあると思いますか。
国民性かも知れませんが、日本の靴工場は手仕事が細かく丁寧な印象があります。海外でも手が込んでいる靴はあるものの、流れ作業的な工場になると老舗でも割と雑な部分が見えたりします。でもそれが、その国の味として表現に繋がることもあるので、一概に悪いとは言えないのですが。繊細さを醸し出すのも日本製の靴の魅力だと思いますし、仕様は細かく指示したいので、その点では日本がやりやすいと感じています。
それでは、日本と海外では靴に対するニーズも異なると思いますか。
日本の方がより細かく、マニアックに靴を評価している印象があります。海外の人が気にしないような点を、日本の方がすごく気にするとかはありますね。もちろんこれも人によるとは思いますが。
日本のお客様の方がマニアックなのですね。
海外にもマニアックなシューズコレクターはいると思いますが、日本は特に多いと思います。中には作り手を超えるような知識を持つ方もいますし、こういった風潮は独特だと感じます。またそういったニーズに呼応するかのように、最近では日本の靴職人も素晴らしい技術を持った人が多い印象です。