トム ブラウン(THOM BROWNE)は、2019-20年秋冬メンズコレクションを、2019年1月19日(土)にフランス・パリの国立高等美術学校にて発表した。
アーティスティックな雰囲気の漂う会場内を覆うように張り巡らされたのは、緩衝材として用いられるエアクッション。厳かな雰囲気の建物とは対照的に、人工的で無機質なムードを漂わせている。
冒頭に登場したのは、場内の装飾に同化するかのような、全身エアクッションのモデル達。身に着けているワンピースだけでなく、帽子や手袋に至るまでエアクッションで仕立てられている。イントロで登場したモデルに続いて現れたのは、エアクッションのセットアップ。バックにダーツをとり、裾にむけてふわりと広がるようなシルエットを描くロングジャケットは、エアクッションで形作られているとは思えない、端正な仕上がりだ。
予想外の演出から幕を開けた今季のコレクション。デザイナーのトム・ブラウンが注目したのは、“waisted”=くびれたウエスト。ウエストをシェイプさせることで女性的な造形になることを厭わず、むしろ“女性的”とされてきたプロポーションをメンズウェアに積極的に落とし込んだウェアが展開された。優雅なシルエットのピースからは、既成概念を跳ねのけるかのような、自由で強い意思が感じられる。
服を解体し、繋ぎ合わせることで構築された服は、布地を重ねて贅沢に仕立てたドレスのようなエレガンスを描き出す。服が折り重なることで生まれる、スカルプチャーのようなドレープや、ある種の必然性をもって組み立てられた、造形の美しさは、高い仕立ての技巧あってこそ実現できるものだろう。本来襟にあたるパーツが肩に施されていても、本来はまっすぐなはずの裾が傾いていても、違和感なく堂々とした風格を見せている。
また、立体的かつ構築的に形作られたウェアが登場したかと思えば、対照的なトロンプルイユのドレスも登場。ロングコートにブラウス、ネクタイが平面に描かれることで、ボディコンシャスなシルエットがより一層際立つ。
犬やアヒルを象ったバッグが、スタイリングに愛らしいエッセンスをもたらす。犬のバッグは、冒頭のエアクッションに始まり、カラーブロックのレザー、クロコ調などで表現されている。アヒルのバッグには、アヒル柄刺繍のワンピースをコーディネート。このワンピースは、1つ前のルックで登場した、ファー付きのケープコートにボウタイを組み合わせたスタイリングを平面化しているものだ。
フィナーレには、エアクッションのセットアップを身に着けたモデルが再び登場。ランウェイの中央に並べられたオブジェのエアクッションカバーを1つずつ取っていくと、コレクションルックを着た人形が顔を出す。並べられた人形達が、ウォーキングするモデルに代わってコレクションを締め括った。ショーの最初から最後まで、全ての要素において、既成概念を抜け出した自由な発想を発揮した。