エルメス(HERMÈS)財団が東京・銀座に展開する銀座メゾンエルメス フォーラムでは、展覧会「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」を、2024年9月7日(土)から2025年1月13日(月・祝)まで開催する。
「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」という問いのもと、作家活動を続けてきた現代美術家、内藤礼。光や影、水、大気の移ろいのなかに、人々が日常で見過ごしてしまうささやかな事物や情景、知覚しがたいひそやかな現象を捉える、静謐な作品を手がけてきた。
「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」展は、東京国立博物館における同名の特別展と繋がり持って構想された展覧会。東京国立博物館での展示と響かせあいつつ、人間が生きてゆくために必要としてきた、形にならないもの、目には見えないものを繊細に浮かびあがらせてゆく。
ふたつの会場の響きあいを象徴する作品のひとつが、「color beginning/breath」シリーズだ。同作は、2023年11月から翌年の5月にかけて、日々内藤のアトリエで制作された絵画のシリーズ。白いカンヴァスにアクリル絵具を淡く、時に力強く施した作品であり、一連の2枚組の絵画から構成されている。
日々制作されたという「color beginning/breath」の絵画は、それ自体、時間の流れを具現化するものであるといえる。そして、一連の絵画の組のうち2組を、それぞれの会場でまたがって展示することで、銀座メゾンエルメス フォーラムと東京国立博物館の展示を繋げている。こうして、内藤が過ごした時間の流れを通じて、ふたつの会場にひとつの時間軸を持ちこんでいるのだ。
何より、この「color beginning/breath」シリーズはそれ自体、色に対する喜びと驚きを表している。それは、2020年、金沢21世紀美術館で開催されるはずであった個展が延期とならざるをえなかったなか、日々の生活に色や喜びがほしいと感じ、それまでは使うことにためらいを覚えてきた「綺麗な色」をのせ、それに対して純粋に驚く、ということから始まったのだという。
ふたつの会場で共通する展示は、ほかにも、人型のオブジェ、ファブリック、小石、鏡、あるいは対になった風船などを挙げることができる。これら、それぞれに小さな作品のひとつひとつは、床に置かれ、窓や壁に佇み、あるいは天井から吊るされるというように、人々が生きているのと同じ空間のなかに据えられている。こうして、ささやかなオブジェの数々を通して、人々がそこで生まれ、呼吸をし、衰えてゆくこの空間を意識させるのである。
では、ふたつの会場での展示の違いとは何だろう。そのひとつが、生花である。ガラスブロックを通して、自然光や街の光が差しこむ銀座メゾンエルメス フォーラムの展示作品では、命ある存在として唯一、1輪の花が生けられている。優美に咲き開くも、数日も経てば衰えてゆく花の姿は、生に流れる時間の抗いようもない相を、美しくもまざまざと示しているといえる。
もうひとつ、縄文時代の考古遺物に目を向けた東京国立博物館での展示に対して、銀座メゾンエルメス フォーラムにおいては、雑誌を用いた作品「顔」シリーズは、現代の人々が生きる同時代に目を向けているという点で特徴的である。
「顔」シリーズは、雑誌のページをくしゃっと丸め、それを開くと、そこに写るモデルの顔が笑って見えたりと、さまざまな表情から感情が湧きでてきたという経験から生まれたという。いわばそれは、感情という、目には見えないけれども人間に欠かすことのできないものにまつわる作品であるといえるだろう。
このように本展では、今という時間の流れをすくいあげることで、人間が生きてゆくために必要とする感情、記憶、感覚など、明確に形にならず、必ずしも目には見えないものを、繊細に浮かびあがらせている。
展覧会「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」
会期:2024年9月7日(土)~2025年1月13日(月・祝)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム 8・9F
住所:東京都中央区銀座5-4-1
開館時間:12:00~19:00(入場は18:30まで)
休館日:水曜日、10月24日(木)
入場料:無料
■連携企画
特別展「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」
会期:2024年6月25日(火)〜9月23日(月・振)
会場:東京国立博物館
住所:東京都台東区上野公園13-9
※8月1日(木)より事前予約制(詳細については博物館ホームページを参照)
※無料シャトルバス:2会場での展示がともに開催している期間の土・日曜日、祝日には、東京国立博物館と銀座メゾンエルメス フォーラムを結ぶ無料シャトルバスを利用可(詳細については展覧会ページを参照)
【問い合わせ先】
銀座メゾンエルメス フォーラム
TEL:03-3569-3300