ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)の2024年秋冬メンズコレクションが、2024年1月13日(土)、イタリアのミラノにて発表された。
テーラリングを中心に、研ぎ澄まされたブラックにまとめたコレクションを披露した、今季のドルチェ&ガッバーナ。ここで黒と言ったとき、あらゆる色彩を排除した無表情さをほのめかしたいのではない。むしろ、黒ゆえに引き立てられる、光との戯れ、その華やぎが追求されているように思われるのだ。
コレクションの中心となるのは、テーラリング、とりわけ劇場の正装にふさわしかろうジャケットなどだ。フロントを短く、バックを長く設定した燕尾服をはじめ、ショート丈のダブルジャケット、ショールカラージャケットなど、身体のフォルムを際立てる屈強な仕立てを、ブラックでまとめている。
そもそも、衿に光沢のあるシルクを用いたスモーキングジャケットは、手に持った煙草の灰が落ちても、そのなめらかさゆえに簡単に払い落とせるものであった。この実用性はしかし影を潜めて、ブラックでありながらもフロントにシルクの光沢がきらめく、抑制された華やぎこそが、スモーキングジャケットをして劇場の正装たらしめているように思える。
黒と光の戯れこそ、今季のドルチェ&ガッバーナのエッセンスにほかならない。衿を光沢のあるなめらかな素材に切り替えるのはもちろん、ジャケットにスパンコールを施し、ブルゾンには底光りするレザーを用い、ビジューを揺らめかせ、あるいはボリューミーなロングコートには艶めかしいファーを取り入れるなど、ブラックが光とともに織りなす豊かな華やぎが、コレクション全体を通して見られる。
また、抑制されたテーラリングから溢れだすような、装飾の華やぎも随所に見て取れる。上述したジャケットのビジューを筆頭に、官能性を引き立てるレース切り替えのシャツ、光沢のある素材で仕上げたリボン付きのシャツなどが、厳格なテーラードスタイルに優美な華やぎをもたらしている。
ところで、19世紀後半フランスの詩人ステファヌ・マラルメは、同時代の画家エドゥアール・マネの作品《オペラ座の仮面舞踏会》について論じたテクストを残している。横長の画面には、パリのオペラ座の中を舞台に、黒い燕尾服をまとった男性が横にずらりと描かれている。一見すると黒一色の帯にも見えるこの作品に、マラルメは黒が示す表情の豊かさを見て取ったのだった。今季のドルチェ&ガッバーナもまた、このように黒が引き立てる光の華やぎをこそ、色調を抑制した世界で追求したように思われる。