ディオール(DIOR)の展覧会「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」が、東京都現代美術館にて、2022年12月21日(水)から2023年5月28日(日)まで開催される。
「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展は、パリを皮切りに、ロンドンやニューヨークなど世界各地を巡回してきた回顧展だ。東京都現代美術館で開催される本巡回展では、ディオールの創設者クリスチャン・ディオールから受け継がれるクリエーションとその感性、そしてメゾンと日本との関係性にも光をあてつつ、70年以上にわたるディオールの作品を中心に紹介する。
全13章から構成される会場では、「ニュールック」を象徴する「バー(Bar)」スーツを筆頭に、過去から現在に至るオートクチュール モデルやアクセサリーなどを展示。クリスチャン・ディオール、そして彼の後を継いだイヴ・サン=ローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、マリア・グラツィア・キウリら、歴代のクリエイティブ ディレクターによって考案された作品を一堂に集めて展示する。
1947年2月12日のパリ。クリスチャン・ディオールの初のコレクションがパリで発表され、これは「ニュールック」と呼ばれることになる。第二次世界大戦終結して間もない当時、敗戦国のみならず戦勝国さえも経済の低迷と物資の不足に苛まれるなか、ショルダーはなだらかにカーブを描き、ウエストはコルセットで絞る、そして裾にかけては豊かに膨らませたテーラードジャケットと、ふんだんにプリーツをとったスカートから構成される「バー」スーツは、さならが優雅に開く1輪の花とでも形容できるだろう。
じじつ、ディオールのこのコレクションのテーマのひとつは、花冠を意味する「コロールライン」であった。第一次世界大戦後の欧米に浸透した、直線的・機能的なモダニズムの服飾デザイン──ストレートなラインのジャケットと軽快なショートスカートからなるシャネル(CHANEL)のスーツはその代表例である──とは異なり、ディオールの手がけたコレクションは、シルエットのうえでは第一次大戦以前の曲線的なドレスの優雅さを「夢見る」ものであった。
第二次大戦後の荒廃のなか、人びとは古き良きエレガンスを渇望しており、「ニュールック」とはまさにその夢を具現化するものであったようだ。同時にこのコレクションは、第二次大戦下、ドイツ軍によって占領され弱体化を強いられることになったパリ・モードを、ふたたびファッションの首都へと復帰させることになる。
このように、クリスチャン・ディオールの原点であるとともに、戦後のパリ・ファッションの原点であるとも捉えられる「ニュールック」は、メゾンの歴史においてつねにクリエーションの源泉となってきた。会場では、1947年の「バー」スーツを筆頭に、歴代のクリエイティブ ディレクターによって再解釈されてきたドレスなどを目にすることができる。
過去の優雅さを夢見て、それを優雅なフォルムへと具現化する──ここで夢見られたエレガンスは、しかし、決して曖昧なものではなく、明晰な構築性に支えられていた。たとえば、ドレスのファブリックにはチュールを裏打ちし、コルセットはウエストを絞ってバストを押し上げる。スカートもヒップを押し出し、全体として立体的・曲線的なシルエットを描きだす。いわばエレガンスの夢は、建築的な意志に支えられていた。
また、過去を夢見るとはいっても、そこには現代的な感覚が働いている。ふたたび「バー」スーツを引くならば、それは確かに、19世紀末から20世紀初頭にかけてモードから消えかかったコルセットを用いてはいるものの、クリノリン・バッスルスタイルなどに見られる重厚な装飾性からは距離をとり、現代的なカッティングやテーラーリングによる簡潔なフォルムに仕立てられている。カラーリングもまた、ジャケットはホワイト、スカートはブラックと、過去のドレスの豪華絢爛さとは一線を画する抑制と力強さを感じさせる。配色だけをとっても、それは「バー」スーツに着想したアーカイブの数々から見てとることができる。
会場では、マリア・グラツィア・キウリからラフ・シモンズ、ジョン・ガリアーノ、ジャンフランコ・フェレ、マルク・ボアン、イヴ・サン=ローラン、そして創業者ディオールに至るまで、メゾンの歴史を遡行するように歴代のクリエイティブ ディレクターの代表作を展示する章を設けている。そこからは、過去を夢見つつも、それを明晰な構築性でもって優雅なシルエットへと具現化させるというクリスチャン・ディオールの身振りが、執拗に鳴り響く低音のようにして感じられるだろう。
クリスチャン ディオールは世界的に展開するオートクチュールのメゾンの先駆的な存在であり、初めて日本に進出した西洋のファッションブランドであった。日本の市井のファッションもディオールがの影響を受け、一例を挙げれば1950年代中期に流行したハイウエストのAラインドレス、いわゆる「落下傘スタイル」は、1955年に発表された「Aライン」を反映したものであった。