――コンテンツのジャンルとしては、映画などもありますが、これらはNIGOさんというよりはチームの意見で?
いや、結構僕のチョイスも入っています。例えばオズ(映画『オズの魔法使』1939年)とか。あのTシャツは結構傑作だなと気に入っています。コンテンツには僕の好みも入っていますが、そこのさじ加減はとても難いですね……。
例えばトイ・ストーリーのエイリアンなどは、僕はそこまで得意ではないんですけど、実際、反響としてはすごい人気があります。「エイリアンをやろう」と決まって、僕がデザインのディレクションをしていくときに、実際、本当に細かい作業がたくさんあるんです。逐一、このインクを水性にするのかラバーなのか、じゃあ糸はどうするのか、とか。かなり試刷りもします。実寸のものをボディにプリントアウトをのせて、位置も決めていますし。点数が多いっていうのもありますが、製品になるまでには時間も手もかかっています。
これだけ量があるので流れ作業のように思われるかもしれませんが、全く流れていなくて。立ち止まって1点1点じっくり見て考えています。ホントにTシャツってプリントの位置が5㎜違うだけで、全然見え方変わってきますからね。
――1000点以上あるこれだけのコレクションをひとつひとつ、見るのは大変ですよね。
そうですね。特に、僕も初めてのファーストシーズンだったので、ちょっと戸惑いがあったり、分からないこともありましたが、結果うまくいったと思っています。やっぱり監督がいることによって、なんとなく統一感はありますよね。並べて比べたら今までと変わったというのが、伝わってると思います。ボディとなる「面(つら)」が全然違うので。良い意味での荒々しさを出せました。
――これは今回特別こだわったというものはありますか?
芸艸堂(うんそうどう※3)ですね。実際にアーカイブを見に行ったのですが、膨大な図案の中からチョイスしていて、基となる図案は小さいものが多いんです。それをパターン化したり、ボーダーにしたりもしました。他にもなんとなく和柄っぽさを出すためにボディをスラブにしてみたり、赤のステッチを入れたり……。些細なことなんですけど、シンプルが故にやれることは少ないですよね。Tシャツは本当に難しいんですよ。
――お聞きしていると、シンプルなTシャツですが、やっていることは多いと感じます。
はい。それはやっぱり今までの経験から僕やチームが持っているノウハウと、UTの生産性の高さが融合していると思います。その「ならでは」が出ていると思います。
――ところで、UTを着るのは老若男女色んな人がいると思いますが、特にTシャツをよく着るであろう若い世代のファッションについて、どう見られていますか。
若い人はまず買い方が違います。スマートフォンのこの小さい画面上で買いますよね。それは僕らの世代とは違うし、とにかく情報量が多いですからね。僕らの時って、情報が少なくて、とにかくハングリーだった。状況が全然違うと思います。
で、ファッションに関しては、やっぱり安いファストファッション系が主流ですが、僕も実際にUTに入ってみて分かりましたが、安くてもクオリティが良いですよね。時代が作用して若者はファッションに対して、そこまで貪欲にはならない気がします。そう考えると、これまでのやり方では売れないなと感じています。僕らの年代はファッション誌を読むし、育ってきた過程も違います。今、並んでる雑誌ってどうみても30代か40代のファッション誌ばっかりです。誌面は昔からあるもので作られて、登場人物も取材を受ける対象も、30、40代が多いし、若い人はそこにファッションを求めないのではと思います。
故に僕は今、すごく面白いです。僕の仕事は、ファッションをアプローチしていく職業です。UTで、安くて、且つクオリティがよくて面白いものを若者に向けてもどんどん提供できるというのは、この職業に携わる者として、すごく幸せなのかな、と。クリエイティブが年を取らずに済むので。すごくいいチャンスをいただきました。
――若い世代へのアプローチという意味でも、ですよね。
そうですね。やっぱり僕が今まで作っていたTシャツって6,800円、7,800円とかでした。それがUTだと1,500円以下。だから、本当に時代は変わりつつあります。僕がヒューマンメイドをやるのは、もう“古き良き”になっちゃっていますが、そういう昭和のスタイルっていうものも維持したいと思っているから。そういうものを見せる場っていうのも必要だし、こういう時代に合わない提案も必要だと思っています。どちらもやっていて楽しいし、大事だと思っています。
※3 芸艸堂
京都で明治24年(1891年)に創業。日本で唯一、現在でも手刷木版により和装本を刊行する美術出版社。