ノゾミイシグロ オートクチュール(NOZOMI ISHIGURO Haute Couture)とノゾミイシグロ タンバリン(NOZOMI ISHIGURO tambourine)の2014年春夏コレクションがルームスリンクのメイン会場、ベルサールガーデン渋谷で同時に発表された。共通のテーマとして据えられたのは「平和ボケ」。ノゾミイシグロらしい、強いメッセ―ジを込めたコレクションとなった。
今季のコレクションで目を引いた象徴的な表現が2つある。1つはアメリカの国旗「星条旗」を引き裂き、解体し、穴を空けたアナーキーなデザインだ。ばらばらになった星条旗を半ば強引に縫い直し、再構築すれば、メッセージ性のある洋服が生まれる。
ハートモチーフの装飾やハート型のパンチングがもう1つ。例えば、ファーストルックで披露されたコルセットの中央にはハート型の大きなハートのオブジェが飾り付けられ、赤いレザーのドレスにはパンチングによってラブリーなハートが飛ぶなど。ドレープが自在に走り、ドレスのバックの生地がひらひらと揺れる様子は、飛び回るハートを追いかけるよう。華やかでガーリーなハートが散りばめられてはいるものの、ノゾミイシグロらしい反骨的なデザインや素材感で甘さは控えめに抑えられた。
ときには「LOVE」を表すハート。以前ノゾミイシグロが、コントロールベアーとコラボレーションしたときにも、ハートや「LOVE」の文字が散りばめられていた。そのとき石黒望は、「本当は"原発反対"や"TPP反対"、"オリンピックをなんで誘致するのか"ということを書こうと思いました。1つ1つの"LOVE"にはそういう想いを込めています」と語っていた。きっと今回も、そんな想いがのせられているのだろう。
ノゾミイシグロ タンバリンでは、古着を再構築したかのようなデザインが見る者の目を特に惹きつける。パーカーやTシャツを半分にカットし、それぞれ別のものを強引に縫い付ければ、左右で表情の違うアイテムが生まれる。袖を新しくつけ、以前からある袖を放棄するあたりが、なんともノゾミイシグロらしい。シャツに使われるような薄手の素材と比較的厚いデニム生地を組み合わせた、ショートパンツも印象的だった。
メインテキスタイルとしては、ドット柄や思うがままに塗りたくったようなペンキの軌跡などが挙げられるだろう。特にパンチングで表現され、もはや穴ともいえるドットを使ったセットアップやロングコートは強烈なインパクトを放つ。タンバリンを持った鳥のキャラクターは、ポップなアクセントとして、コレクションを少し賑やかにしてくれた。
既存のテーラリングにとらわれない自由奔放なデザインは、石黒の真髄ともいえる。今回のテーマである「平和ボケ」は、それはもちろん私たちに対するメッセージでもあるだろうが、もしかすると服作りに対しても向けられたのかもしれない。