ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)の2022年春夏メンズコレクションのスピンオフショーが発表された。
2021年12月に開催された、2022年春夏メンズコレクションのスピンオフショー。この春夏コレクションの内容自体は、すでに駆け足に記述済みである。その眼目は衣服にまつわる〈コード〉──フォーマルとストリート、マスキュリンとフェミニン、等々──の惑乱にあった。それでは今ここで、何を語り直そう?
メンズ アーティスティック・ディレクターの故ヴァージル・アブローが2020年7月に発表した「マニフェスト」がある。そこで彼は執拗に「ニュアンス」──微妙な差異、機微──について綴っている。すなわち、衣服にまつわるステレオタイプやラベルといった固定されたものを問いに付し、衣服がもつ豊かな内実をこそ示すこと。ちなみに「マニフェスト」を語ること自体、自身の意には反する、とも記している。というのも「マニフェスト」とは、ラテン語でobvious(=明瞭な)を意味する語を源とするのだから。
それならばここでは、白く力強い光のもとではなく、仄かな明かりに照らされる暗がりのなかで、ニュアンスの豊かさに目を向けるのが良さそうだ。たとえばテーラードジャケットは端正なフォルムながらも、ウエストをベルトで締めることで、しなやかな可塑性を印象付ける。あるいは、ジャケットと対照的に用いられたスカートの揺らめきや、軽やかなロングコートのビニール素材がなびくようにして織りなす細かなひだもまた、ソリッドな屈強さを柔らかなフォルムへと接ぎ木しているといえよう。
ソリッドなものの屈折。これにダミエを引きつけることもできるかもしれない。このチェッカーボード柄、ないし石畳模様は、たとえばルネサンス絵画に多用されて合理的な遠近法空間を強調していたように、明晰な秩序を示すものだといえる。しかしテーラードジャケットやスカート、チェスターコートには、そうした冷え冷えとした秩序を掻き乱すかのようにして、異なる色やパターンのチェッカーボード柄を組み合わせた。
目の覚めるような色彩も、コレクションを特徴付けるものだろう。テーラードスーツやトラックスーツをはじめ、いわゆるフォーマル、ストリート、スポーティなどとカテゴライズされるウェアには等しく、黒から出発し、ブルー、レッド、グリーン、ネオングリーン、ピンク、イエローと、ヴィヴィッドな色彩をコレクションというパレットに虹を描くようにして採用し、色彩の力強さをそれ自体に語らせている。
色彩の粒子の極微なる運動──目の覚めるように鮮やかな色彩はまた、グラデーションやタイダイとして用いられ、その豊かな移ろいを表現している。ピンクやブルー、グリーン、イエローといったグラデーションは、モノグラム・パターンのエンボス加工を施したスタンドカラーブルゾンや大小さまざまなサイズのバッグ、ボリューミーなファージャケットなどに採用。一方でテーラードジャケットやショートパンツにはブルーのタイダイを用いるとともに、モッズコートやワイドパンツにはマルチカラーのタイダイを、帯をなすように施した。