映画『CUBE ⼀度⼊ったら、最後』に出演する俳優・吉田鋼太郎にインタビュー。
映画『CUBE ⼀度⼊ったら、最後』は、1997年に公開されたヴィンチェンゾ・ナタリ監督の名作スリラー映画『CUBE』をリメイクした作品。死のトラップで張り巡らされた“キューブ”(立方体)の中に閉じ込められた、見知らぬ者同士の脱出劇を描く。
そんな映画『CUBE ⼀度⼊ったら、最後』で、会社役員・安東和正役を演じる吉田鋼太郎。傲慢で若者が嫌いな安東というキャラクターをどのように演じ、リメイク映画という珍しい作品形態に向き合ったのか。作品の印象から自身の演技や役作りまで、幅広い話を伺った。
■ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の映画『CUBE』(1997)のリメイク作品でしたが、オリジナル版の印象はどのようなものでしたか?
オリジナルの『CUBE』が公開された当時リアルタイムで鑑賞したのですが、率直に“変わった映画だな”と思いました。
“この物語を通して作者は何を伝えたいんだろう”“この映画を作った意味は何だったのだろう”と思考を張り巡らせる一方で、目を離せなくなるスリリングさがある。私がそれまでに見たことのなかったジャンルの映画作品でした。
■仰る通り、独特な世界観に引き込まれる作品でした。今回主演を務める菅田将暉さんは本作品を“カテゴライズするのがとても難しい、実験的なエンターテインメント作品”だと仰っていますね。
菅田君の言う通りだと思います。背景の変わることの無い“キューブ”という無機質な空間の中で、ひたすらにトラップから逃れながら出口を探す。本当にただそれだけのことを延々と繰り返す映画。普通であれば飽きて途中で観るのを辞めてしまうかもしれないような単純な構成なんです。
■でも、なぜか観続けてしまう。
そう。オリジナル版も今回のリメイクも、密閉された空間からの脱出を試みる人間が全知全能を振り絞る姿を見ながら、推測の域を出ない不明瞭な物語の結末を想像している内に、どんどん作品の世界観に引き込まれていく。おそらく同じ感覚を味わえる映画は他に無いと思います。オリジナル版は公開から20年以上経ちますが、今でも新しい映画を見ている気分になる作品ですね。
■原作を持つ実写映画は近年増えていますが、『CUBE』のような世界的なヒット作品のリメイク版は、日本でも滅多に見ない例ですよね。映画出演の上で、普段よりも入念に作品研究を行ったのでしょうか?
珍しい例ですよね。研究という意味では、オリジナル版はしっかり観て、基本的なキャラクターや役の立ち位置などは頭に入れました。
ただ、海外作品がオリジナル版の場合、日本人があの世界観を全く同じように表現するっていうのは、そもそも難しいと思ったんですよね。驚きの表現にしろ、恐怖の表現にしろ、スクリーンに映る細かなところから、我々の表現にはそもそも違いがある訳だから。
なので、オリジナル版での海外の俳優たちの演技を直接参考にはしませんでした。そもそも、私が演じる安東は、オリジナル版に登場しないキャラクターでしたし、台本にも説明があまり書かれていなかったので、現場で作り上げたキャラクターであるといっても過言ではありません。
■安東の人物像は、細かく指定されていなかったんですね。
はい。台本に書いてある安東の情報は、会社役員という職業と61歳という年齢のみでした。なので、事前に綿密な役作りは行わず、現場での他のキャストとのやりとりから生まれる感覚や安東のキャラクター像を大事にしました。実績のある俳優の方々が揃った作品なので、その方がより良い演技と作品が生まれると思ったんですよね。
■たしかに、本作で俳優同士の演技の掛け合いが生む物語の緊迫感やリアルさは、凄まじいものがありました。実際に撮影中はどのような事を意識しながら安東を演じられたのですか。
安東は会社の役員、つまり一般的に“偉い人”ですよね。人は偉くなるにつれて面と向かって批判されたりダメ出しされることが無くなります。そうすると、知らない内に高い地位の上で胡坐をかきながら物事を考えるようになってしまって、人間として成長しなくなる。
安東もそうなってしまった人間の一人です。慢心し成長しなくなった人間が“キューブ”のような切羽詰まったシチュエーションに追い込まれた時に、己の無力さに気付く悲しさや哀れさを感じて貰えればと思いながら役を演じました。
■本作の安東もそうですが、吉田さんは会社の上司や重役といった役柄を多く務めていらっしゃるイメージがあります。
そのイメージの通りです。(笑)そういう点では今回の安東も役柄には入り込みやすかった。年齢も殆ど同じですからね。
■劇中で安東が発する「若い奴が大嫌いなんだ」という台詞がとても印象的でしたが、熟練の俳優として吉田さんは普段若手俳優の方々とどのような関係性でいますか?
私自身は安東とは全く違って、若い方々と凄く仲が良いんですよ。(笑)同年代の俳優よりも、自分より若い世代の俳優友達の方が多いくらい。なので、若手俳優の方々とは良い関係性を築かせて貰っています。
例えば、仕事の事からプライベートの事まで何でも話をするのは、小栗旬君と藤原竜也君。彼らとはとっても仲が良い。特にプライベートでは、皆子供が生まれたので、家族ぐるみの付き合いをしています。
■とても豪華な顔ぶれが揃うプライベートですね(笑)仕事の話をするときは、吉田さんから演技のアドバイスなどをされるのでしょうか。
聞かれたらしますけど、最近はあまりしないですね。彼らが10代の頃からの付き合いなので、当時は滑舌だったり台本の読み方だったりについてアドバイスをしたことはありましたが、彼らはもう当然そういったレベルの俳優ではないですから。逆に教わることの方が多いです。