佐藤健が、2021年10月1日(金)公開の映画『護られなかった者たちへ』で主演を務める。演じるのは、連続殺人事件の容疑者となる利根泰久だ。
「このミステリーがすごい!」受賞作家・中山七里の同名小説を実写化する映画『護られなかった者たちへ』は、珠玉のミステリーでありながら、東日本大震災後の貧困や生活保護といった現実的な問題を描いた作品。佐藤健は、この物語とどう向き合ったのだろうか?
映画『護られなかった者たちへ』での役作りについて話を聞くと、佐藤健のものづくりに対する姿勢や、役者の仕事を続ける上での原動力にも迫ることができた。
■撮影に入る前に、原作小説の『護られなかった者たちへ』をお読みになったそうですね。
出演のお話をいただいて原作を読んだのですが、純粋に面白いと思いました。生活保護というのが『護られなかった者たちへ』の1つのテーマですが、この問題にここまで焦点を当てた物語というのが新鮮で。この作品を映像化するなら、ぜひ参加したいと思いました。
■東日本大震災後の貧困や生活保護といった現実的な問題が、物語の軸になっています。
生活保護は、誰にでも関係があるとても身近なものなのに、僕自身そこまで考えが至っていなかった。僕以外の多くの人にとっても、知ってはいるけれど、触れにくい問題だと思います。だけど『護られなかった者たちへ』は、それを真っ向から描いている。この物語を映像化して、世の中のみなさんに伝えるというのは、非常に意義のあることだなと感じました。
もちろん、純粋にミステリーとしてもエンターテイメント性が高い作品だなと。まだこの小説を読んだことがない人は、あまり前情報を入れずに、ぜひ裏切られてほしいです。
■映画化する上で、原作小説から何か変更点はあったのでしょうか。
原作と比べると、映画ではミステリーの要素が薄まっていて、人間ドラマに比重が置かれています。生活保護の制度的・政治的な問題はもちろん、それぞれにとっての“大切な人たち”について考えるきっかけを与えてくれる作品に仕上がっていますね。
■シリアスなシーンも多いですが、人の温かみを感じられる作品ですよね。
はい。ある殺人事件をきっかけに、僕が演じる利根が容疑者になり、阿部さん演じる刑事が事件の真相に迫っていくというシリアスなシーンが続くのですが、そういったシーンを描けば描くほど、かえって人の温かさを感じられる場面が際立つ。物語に触れているうちに、自然と自分が守りたい“大切な人たち”の顔が浮かんでくるような作品です。
この作品は社会に対する問題提起という意味も持っていますが、僕個人としては、苦しんでいる人がいるという事実を、まずは多くの人に知ってもらいたいという想いが強いです。震災後、そして現在でも、利根のように、悲しみや、やり場のない怒り、虚しさ抱えている人がいる。そのことが伝われば嬉しいです。
■佐藤さんは、物語の重要な鍵を握る利根泰久を演じました。利根という人物を、どのように捉えましたか。
不器用だけれど、熱い思いを持った心優しい青年だなと。誰も信⽤せず、全員敵だと思っていて、物事を⾒る時の視線が鋭いイメージ。でも、まっすぐすぎるからこそ、愛したものへの思いも普通の⼈以上に強い人物だと捉えていました。
■利根という人物に、佐藤さん自身の生き方を重ねて、共感した部分はありましたか。
共感できる部分が多いキャラクターでした。器用に表現はできないけど、自分の中にちゃんと正義があって、人として一本通っている芯がぶれない姿勢に共感できましたね。
■利根は不器用な人物で、セリフが少ない印象を受けました。
結果的にセリフが少なくなった、という表現が正しいかもしれないです。実は、僕は演じる上で、台本のセリフが多いとか少ないとか、全く考えたことがなくて。台本にセリフが書いてあっても、逆に書かれていなかったとしても、人物に感情移入した上で、話したい時にだけ話して、話したくない時には話さない。
だから今回も、利根という人物を表現した結果、アウトプットしたセリフが少なくなった、ということかなと。
■不器用な人物だから言葉数を少なくしよう、と計算したのではなく、その人物になりきった上で、アドリブ的に演じていると。
そうです。いつも「このシーンを表現するために、この人物だったらどういう行動をするか?」という思考プロセスを踏んでいるので、最終的には本番、その場に立って、自分から自然と湧き出てくるものが全てです。だから、セリフを言うのも、言わないのも、僕にとっては同意義。
普段生きていて、「こういう言いまわしで言おう」なんて、あまり考えないじゃないですか。役者も、「こういう風にセリフ言おう」って思っちゃだめだと。そういう風に狙いにいった時、クリエイティブって死ぬと思っているんです。
■狙って作り込みすぎると、逆説的に、良くない芝居が生まれてしまうと。
はい。今回ご一緒した瀬々監督も、同じような考えを持っているんじゃないかなと思います。監督のもとだと、自然と良い芝居が生まれるんですが、監督は良い芝居を引き出そうとはしないし、演出しようともしない。
僕は、現場ではその時に感じたままに芝居をして、あとは監督がどこをピックアップしてくれるのか、どうチョイスしてくれるのかっていうところに、全て委ねていました。なので、僕自身、完成した映画を観るまでは、利根がどういう風に映っているのか想像できない部分もあったんです。
■常に自然体で、フラットな状態で、芝居に向き合っているのですね。
いろんな現場があるので、柔軟にいられるようにしていて。どの現場でも絶対にまげられないポリシーを貫くというのではなく、作品ごとにアプローチを変えています。1つの現場が終わったら切り替えて、また1つの作品に向き合っていますね。
■佐藤さんが、役者という仕事にのめり込む原動力になっているものは何なのでしょう。
1つは、自分が役者として勝負しているという事実がある以上、そこで負けるわけにはいかないから。そこでみっともない姿を見せるわけにはいかない。そういう意地とか見栄とか、プライドみたいなものも、モチベーションの源泉になっています。あとは、純粋に、面白い映画やドラマを作りたいという気持ちも、原動力になっていますね。
■出演する映画やドラマは、自分で決めているのでしょうか。
はい。基本的には、自分がやりたいかということを考えた上で、出演する作品を決めていて。やりたい作品だからこそ、頑張ることができている、というのもモチベーションになっています。自分のキャリアや社会的に意義のある作品に出たいと思うこともあれば、一緒に作品を作りたい人がいる場合もあるし、魅力的な作品やキャラクターに惹かれることもありますね。
■佐藤さんの人生において、役者というものはどのような位置づけなのでしょうか。
ただ1つ人生で負けたくないもの、このフィールドでは絶対に人に負けたくないっていうものですね。あくまでも仕事、という位置づけではあるのですが、プライベートで面白い作品を見ると、自然と仕事とつなげることもあります。
■プライベートで見た作品が、仕事に影響を与えることもあると。作品鑑賞の他に、プライベートで熱中していることはありますか。
謎解きは、変わらず、ずっとやっています。人生においてその都度その都度、ハマっているものはあって、自分の中でのブームが移り変わっていくんですけど、謎解きはそれが一番長いです。
■佐藤さんが謎解きに魅了されている理由は、何なのでしょうか?
なんなんでしょう。結局はゲームなんですよ。ゲームって、誰にとっても面白いですよね(笑)。でも、単純なゲームは好きじゃなくて。もちろん楽しくてやることもあるんですけど、続かないんです。あんまり意味がないような気がしちゃって。謎解きは、生きていく上で必要な能力が身に付くような気がしている。
■謎解きの考え方は、人生にも応用できると。
思考するってことは、人生の役に立ちますよね。論理的に考えたり、物事の見方を変えたり、複雑な情報を整理したり、いろんなことが、鍛えられている気もして、自分の脳にいいことをしているような気になっています(笑)。
■謎解き以外には、最近、ご自身で洋服づくりにも取り組んでいるそうですね。ファッションについてのこだわりを教えてください。
触り心地の良い生地にこだわっています。やっぱり肌に触れるものだから、上質な素材であることが一番かなと。
■デザインとしては、どのようなものがお好きですか。
日常のことを考えると、シンプルで上質なものを着るのが、一番賢いと思っていて。尖りすぎているデザインは、1回着ると消費してしまうというか。2回目以降着た時に、「あいつ、また同じもの着てるな」ってなるじゃないですか(笑)
ただ、凝ったデザインの洋服も、もちろん好きです。そういう服は、気分変えたい時や特別な時に着て、シーンに合わせていろんなファッションを楽しんでいます。
【作品概要】
映画『護られなかった者たちへ』
公開日:2021年10月1日(金)
キャスト:佐藤健、阿部寛、清原果耶、林遣都、永山瑛太、緒形直人、吉岡秀隆、倍賞美津子
主題歌:桑田佳祐「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」(タイシタレーベル/ビクターエンタテインメント)
原作:中山七里「護られなかった者たちへ」(NHK出版)
監督:瀬々敬久
脚本:林民夫、瀬々敬久
<ヘアメイク・スタイリストクレジット>
ヘアメイク:古久保英人(OTIE)、EITO FURUKUBO(OTIE)
スタイリスト:中兼英朗(S-14)、HideroNakagane(S-14)