マラミュート(malamute)の2021年春夏コレクションが発表された。
今季のマラミュートの着想源のひとつは、アンリ・マティス晩年の切り絵作品《ブルー・ヌード》だという。絵具で青く塗った紙を切り、女性のデッサンに沿ってパーツを貼りつけ、それをさらにシルクスクリーンで転写する──過去のアーカイヴを基調に洗練を加える一方で、そのように丁寧で「マティス的」なものづくりが、今季の製作の核にある。
マティスの制作の身振りを模倣するかのような例が、ホールガーメントシリーズであろう。縫しろがなく繊細に仕上げられたハイゲージニットは、デザインを決めて、プログラミングをし、そして編み上げてゆくという丁寧なプロセスを経て仕上げられる。そうして作られたトップスは、ウエスト部分の編み方を変えることで絞り具合に変化をつけ、身体にそっと寄り添うようなシルエットに仕上げられている。
また、同じくハイゲージのホールガーメントニットで仕立てられたワンピースなどは、裾にかけて緩やかに広がるボディに細かなダーツ状の構造をリズミカルに配することで、緩やかに波打つ水面のような表情を生み出した。ゆったりとしたシルエットの下には身体のラインを透かして見せ、それは衣服という「外側」から見た〈わたし〉と、身体という「内側」から感じる〈わたし〉の間の差異を露わにしているようでもある。
他者の眼、鏡や写真で「外側」から捉えられる身体のイメージと、心地よさや痛みといった「内側」からの身体感覚──今季の製作は、まさしく後者、“身体”の感覚を軸に据える。例えばアーカイヴのスカートには、ストレッチの効いた人工素材を使用。リブのサイドを骨盤のサイズに合わせることで、まずもって身体に心地よさを与え、それでいてふわりと裾にかけてふわりと広がる優美なシルエットを生んでいるのだ。
ニットの多彩な網目と素材感、波打つように用いられたプリーツを引き立てる無地のテキスタイルが中心である一方、具象性からいちだん飛翔した花々を配したウェアも目を惹く。ふっくらと厚みのあるジャカードのワンピースには、ぽってりとした紫陽花の花を散りばめた。また、ふんわりとしたロングカーディガンやプルオーバーには、油彩画を彷彿とさせる表情でバナナの花をあしらっている。
《ブルー・ヌード》に誘われたような、濃淡さまざまに階調をなすブルーが目にも心地よい。また、マティスの《レッド・ダンサー》を着想源に、ベージュやブラックもカラーパレットに加えた。そしてキャミソールに使用したレッドカラーは、さながらシックな装いにきりりと引くルージュのように、コレクションに鮮やかなアクセントを添えている──いや、むしろそのルージュは、この〈わたし〉が自分の内側から感じる、力強い意志の表現とでも言うべきなのかもしれない。