直行:各地の機業には膨大な織りに関する知識と経験があって、そこに進化する余地はあまり残されていないと思っています。しかし、原料と加工の組み合わせで素材はまだまだ進化できると思っています。
*機業/産地のテキスタイル企業の総称。
直行:冷たい言い方になりますが、基本的に生き残れるのは一部だと思っています。アパレルが求める生地値と産地が提案する生地値があまりにもかけ離れていて、その状態を放置する限り産地の疲弊は止まりません。
もちろん、産地の生地値は暴利を貪っているわけでない価格です。大手アパレルがビジネスモデルを大転換すれば話は別ですが、本質的な改善には、相当な努力が必要かもしれません。
唯一光があるとすれば、自分たちは積極的に産地に入っているので、自分たちがある程度の規模のビジネスができるようになれば、浮上するキッカケを作れるかもしれません。ただ、現状の卸形式のビジネスをしている限り、ある程度の年商が限界です。それだと今の負のスパイラルを止めることなんて絶対できません。
遠州産地(*)では、もうほとんど先染めができないのです。近くの代産地の協力があるからどうにか回っていますが、産地内で全てをこなすことが全国的に増々厳しくなってきています。
*遠州産地/静岡県浜松市および磐田、掛川、菊川などの静岡県西部地区にまたがる日本有数の綿織物の産地。一方、尾州とは愛知県一宮市を中心に、津島、尾北、尾西の3地区にまたがる日本最大の毛織物(ウール)の産地。先染めとは布を織る前に、糸を先に染色すること。糸の段階で染色せずに、テキスタイルの状態で染めるのが後染め。繊維産業の全盛期は糸を染める染工場が各産地内にあったが、テキスタイルを作る上で要となる染工場の廃業が2000年代に入ってから相次いでいる。遠州産地では、昨年大手が事業を止めたことにより、先染めできる工場がほぼなくなってしまった。
背景説明…主要アパレルは、競争激化・コストカットなどの流れの中で、1990年代後半から縫製の主たる部分を中国を中心とした海外に移転し、それに付随して生地の現地調達が増えた。日本のテキスタイル産地の衰退はそこから一気に加速し、年を重ねるごとに厳しい状況になった。ここ数年、中国の人件費の高騰、チャイナリスクが顕在化し、一部の大手アパレルは日本回帰の方向になってきているが、大手アパレルの求める生地値と、産地のテキスタイル企業が提案する生地値に乖離があり、すんなり日本回帰といかない現状がある。
直行:産地の現状を救えるのは大手アパレルだけだと思います。僕たちはアイデアや開発の協力はできても、産地のビジネスを支えることは現状ではできません。だから、とにかく売れる素材を作りたいですね。機業とアイデアを出し合って作った素材が注目され、それを大手アパレルが買ってくれるような流れを作りたいと思います。
直行:そうですね。人口減少もあってアパレルは年々厳しくなってきています。ただ、自分たちもしばらくはその卸型のビジネスモデルで行くしかありません。直営店は今は全く考えていません。もちろん、これまでの常識を覆すビジネスモデルというのを考えてはいますが、まだ計画段階なので今話すことはできません。
*卸形式/展示会を通じてセレクショップや百貨店の注文を受け、注文を受けた分だけを生産するため、在庫リスクがない。卸値で販売するため、利益率は低くなる。
*直営店/自社で店舗を構えて販売することで、上代から原価、人件費、家賃などの諸経費を引いた分が利益となる。在庫コントロールが上手くできれば利益率は高くなるが、その分在庫を抱えるリスクが高まる。
直行:そうですね。ただそれは、あくまで既存のビジネスモデルですよね。シャネルやイヴ・サンローランの凄いところは、デザインを進化させたのはもちろんですが、ビジネスモデルを環境の変化に合わせて柔軟に変えたことですよね。来年、5年後、10年後になるか分かりませんが、ザ・リラクスのディレクターとして、新しいビジネスモデルを作りたいという夢があります。
*地方のフランチャイズ化/地方セレクトショップの運営会社に、ブランドの単独店、ショップインショップの運営をフランチャイズで委託または協業して行うビジネスモデル。地方で好調な店舗があった場合、双方の話し合いでフランチャイズに切り替えるケースがここ2〜3年で増えている。
直行:いや、自分たちの背負えるリスクの範囲での挑戦です。現段階では他からの資本は求めていません。資本が入ると軸が必ずぶれるんですね。だから、どこかの資本に入る選択肢は考えていません。ただ、自分たちにできることは限られていると思っていて、有能でノウハウを持っている企業とは積極的にコラボレーションしていきたい。今回、ユニット & ゲストと組んだのはPRとの連動と海外へのホールセールを本格的に進めるのが目的です。こういうコラボレーションは今後も積極的にやっていきたいですね。
直実:日本発の世界的なメゾンってまだ存在していないと思うんです。大きな夢ですが、私たちは世界に通用する様なメゾンになりたいと思っています。だから10年先というよりは、50年、100年先を見据えてやっていきたい。世界的にメゾン、ブランドと認められるには“基準”が必要です。自分たちの基準がぶれなければ、必ずなれると思って日々精進します。
直行:今、世界的に見て新しくメゾンになれる可能性が大きいのは日本だと思っています。欧米ではテキスタイルや職人的縫製が壊滅してしまい、こんなに自由に若手が生地から作れる国は世界中で日本だけです。「メイド・イン・ジャパン」と自分たちの基準さえぶらさなければ、決して実現不可能な夢ではないと思っています。
二人:今は、ファッションが好きで、自分の明確なビジョンを持っている若い人にとっては、素晴らしい時代だと思います。とても厳しいがゆえに、本質と良いモノのみが必要とされているからです。人によって価値観は様々ですが、本当に価値のある、良い服しか売れない時代です。怖がらず挑戦してください!
Interview by 増田海治郎/ファッションジャーナリスト