ハトラ(HATRA)が、2016-17年秋冬コレクションを発表。デザイナーの長見佳祐は、今季の制作過程で「積極的に性や人格をキャンセルしようとすること」を念頭に置いたという。
まず、目に留まるのは「波取(ハトラ)」のモチーフ。前シーズンに引き続く象徴的なディテールとして、今季はヒエログリフのように暗号化され、大小さまざまにあしらわれた。さらに、スリットも継続的なディテールとして挙げられるが、今シーズンはさらに進化。大胆に布を削ることで、まわし状になったボトムスやフードだけになったトップスは、洋服と言うよりは技巧的な装飾物のようだ。そして、それらの裾でさりげなく動きを見せたのは、タッセルにも見紛う「よりふさ」。一般的には数珠の飾り紐として使われ、繊細でしなやかな揺れを特徴とする。こういった無機的な要素が、性差を徐々に無くしていく。
スペシャルアイテムは、特殊素材を用いたアウター。中綿入りのコートは、優しいピーチタッチの肌触りで、ふんわり光沢がある。軽量なのにあたたかく、さらに丈夫という、機能性にも優れたものである。次に、ロングのジップアップパーカーも紹介したい。見た目以上の柔らかさをもち、ハリと伸縮性のバランスが絶妙。長めの丈にボリュームのある袖、顔を覆い隠すほどのハイネックといったハトラらしいシルエットが、高機能なテキスタイルとうまく溶け合っている。
また、歪な形の仮面は重要なピース。仮面には、匿名性を持つことで躊躇なく自己をさらけ出せる、あるいは自分ではない誰かに憑依するという二面性がある。言わば、表情を隠すことで「覆面」と「素顔」のどちらもを表現できる手段であり、それは現代社会で生きる上である意味重要なこと。「“隠すこと”にある居心地の良さ」を感じさせてくれるハトラのワードローブに、どこか通ずるものがあるのではないだろうか。