骨董品店の軒先のように様々な国の古びた置物が陳列され、その間を縫うように敷き詰められた真っ赤なスパンコールのランウェイ……。ジバンシィ バイ リカルド ティッシ(Givenchy by Riccardo Tisci)の2015-16年秋冬は、正統派のテーラードの中にこの会場の退廃的な雰囲気を閉じ込めたようなコレクションだった。
コレクションの核となるのはテーラードスーツ。チョークストライプ、ブラックやベージュの無地、ブラック×レッドのパイピング、ゴブラン調のテキスタイルなど様々な生地でスーツを提案しているが、いずれも形やディテールはシンプルそのもの。遊びの部分は袖先やヘムを切りっぱなしにしているくらいで、テーラードの基本に忠実な形をしている。それでも新鮮に見えるのは、腰から膝上にラップスカートを巻いたようなカーディガン風の“腰巻き”を付けているから。フェミニンすぎない男らしいスカートルックを紡ぐことに成功している。
他に目立つアイテムは、ファーをインナーに配したライダースジャケット、襟がレザーになったデニム素材のカバーオール、ハンティング風の真っ赤なキルティングレザージャケット、茶系のボーダーカットソーなど。ここ2シーズンを象徴するディテールだった「太めのバンド」は、シャツのポケットにわずかに残るのみ。人気のスウェットシャツやTシャツは、カタコンブ(骸骨)に炎を重ねたようなものや、火事の燃えかすのような地獄を連想させるようなプリントが多い。
また、前回に引き続きオートクチュール的な手作業のアプローチもふんだんに盛り込んでいる。上半身を墨汁に浸けたようなネイティブアメリカン柄のジャケットは、スパンコールを手作業で縫い付けてグラデーションを表現したスペシャルな逸品。ウィメンズも凝った作りのドレスを主体に並べた。
服自体は、後半に畳み掛けるように連続して見せたネイティブアメリカン風のモチーフとプリント柄を除けば、それほど退廃的な匂いを発していないが、注目すべきは斬新なヘアメイク。アフリカの部族のような貝殻やスパンコールで飾ったマスクはおどろおどろしい雰囲気を醸し、一見ではシンプルなオールバックで撫で付けたヘアスタイルは、前髪の前1〜3列くらいで上下に分けて、前の部分を入れ墨のように見せている。
カラーパレットはブラック、ベージュ、ブラウンを軸に、レッド、オレンジを挿し色に使っている。ここ数年のラグジュアリー・ストリートのシーンを牽引してきたジバンシィだが、今回はストリート色を薄めてテーラードへ回帰した印象を受ける。それでも押し出しの強さは相変わらずパリ随一だから、結局のところストリートキッズを魅了することに変わりはないのだろう。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)