ヨウジヤマモト プール オム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)の2025年春夏コレクションが、2024年6月20日(木)、フランスのパリにて発表された。ランウェイには杏が登場した。
ショーに流れる音楽に、こんな一節があった──「そういうわたしも日陰育ちのひねくれ者」。ひねくれるとは、何か規範があって、「あえて」その道から外れて歩くことだろう。そしてそれは積極的な意味で、ヨウジヤマモトの身振りにほかならないのではなかなろうか?
あえて道をずらす、その足取り。その颯爽とした佇まいは、今季、透けるほどに薄く軽やかなファブリックを用いたテーラリングやシャツなどに見てとることができるように思われる。軽やかな仕立てのテーラードジャケットやコート、ジレ、ロングシャツ、ニットなどは、長めの丈感に設定することで、風を鋭敏に感じては静かに揺らめく。
とりわけテーラリングに目を向けると、シングルブレストのノッチドラペルを軸に、セットインショルダーで仕上げるというように、ディテール自体は概してきわめて抑制されている。ここでは過度に装飾的な要素を颯爽と捨てさることで、衣服と身体、そしてそれらを取り巻く空間の関係が、軽やかに、しかしそれゆえに繊細に感受されているということができるだろう。
そのうえで造形的な特色が際立つならば、それは、身体─衣服─空間という関係をいっそう明確に捉えるものであるはずだ。たとえば、テーラリングの随所には、ファブリックをカットアウトしてフラップ状に折り返すことで、衣服の外側と内側を軽やかに関係付ける。あるいは、アシンメトリックなカッティング、サイドやバックに施したスリットは、風を鋭敏に受け取ってダイナミックな動きをもたらす。ほつれ加工を施したニットやざっくりと編み上げたロングニットもまた、確かな肌触りを持ちながら、風を相互に通わせるものである。
過剰な要素を颯爽と捨てさり、身体─衣服─空間の関係性を鋭敏に捉えるとき、色彩もまた抑制される。コレクションはだから、ブラックとホワイトの爽やかなコントラスト、あるいは異素材をダークトーンでまとめたニュアンスの豊かさを軸に組み立てられる。そのモノクロームの緊張のなかに、古びた街、鮮やかな花、あるいは蜘蛛など、どこか時の経過を感じさせるグラフィックが、艶やかにのせられるのだ。
上で、モノクロームのコントラスト、そして時の経過についてふれてみた。翻って冒頭に戻るならば、ここで何に対して「ひねくれる」のであろうか。それはことによると、新しいスタイルを求めてはたちどころにそれを捨てさる、モードの駆動力だろう。むしろヨウジヤマモトにおいては、流れてゆく時の経過それ自体に視線が向けられる。風を感じるとは、今ここで流れてゆく時間を繊細に感受することではなかろうか。そして、規範から絶妙に距離をとった「ひねくれる」身振りに、緊張のコントラストが生まれるように思われる。