映画『SAINT LAURENT/サンローラン』が2015年12月4日(金)より、日本全国で公開される。
『サンローラン』は、2014年第67回カンヌ国際映画祭で上映され、セザール賞・最優秀衣装デザイン賞を獲得した作品。ベルトラン・ボネロが監督を務め、同時期に製作されたもう1本の映画『イヴ・サンローラン』とは、テーマも撮り方も異なる。サンローラン・スタイルのクリアだが艶と奥行きもある独特の色合いを再現。また、光にこだわったコレクションやナイトクラブのシーン、カット割りを施した映像など、アートとして楽しめる優美な作品を作り上げた。
主演にはギャスパー・ウリエルを迎え、『アデル、ブルーは熱い色』で注目を集めたレア・セドゥ、アミラ・カサールやルイ・ガレルなどが出演。また1989年のイブ・サンローランを演じたのは、名優ヘルムート・バーガー。エレガントさが漂う名演技がサンローラン自身の蘇りを錯覚させる。
作品はイブ・サンローランの人生で最も輝き、最も墜落した10年間に迫る。彼の華麗なクリエーションに秘められた壮絶な苦労と快楽や、人間関係にフォーカスが置かれ、色濃く描写。表現者ゆえの孤独とプレッシャーによる薬物、アルコール依存のシーンが強烈だ。コレクションの発表や、ファッション界のスターであるために、彼が払った犠牲に関して知ることができるだろう。
本作監督のベルトラン・ボネロは、フランス・ニース生まれの47歳。ピエル・パゾリーニの自伝を元にした短編映画『Qui je suis』(1996)でデビュー。音楽、脚本、監督を務めた『メゾン ある娼館の記憶』(2011)ではカンヌ国際映画祭パルムドールにノミネートされた。また音楽家として活動していることもあり、自身の監督作の音楽も手がける。今回ベルトラン・ボネロに、なぜイヴ・サンローランを映画のテーマに選んだのか、そしてサンローランや彼にまつわる人々をどのように描こうとしたのか、制作秘話を聞いた。
サンローランの創出したファッションよりも彼の世界観や彼の生きた時代のほうにより共感を覚えました。その派手で退廃的な一面が、映画特有の可能性を生んでいるところに興味を持ったのだと思います。だけどそれはリアリティというフィルターで、映画の見どころになりうるもので、創作では不可能。そこで私は、前作『メゾン ある娼館の記憶』でも表現した、"格調高く閉じ込めたれた自己が破綻していくというアイデア"をもっと広げたいと考えました。なので35ミリフィルムで撮ることにもこだわり、デジタル撮影では出せない色彩や質感、そして官能的な感触を創り出しました。
ずばり「シンプル」。シンプルに見えることが彼の最大の魅力だと思います。
彼が精力的に活動していた10年なので、もう少し絞り込んでもいいくらいだと思いました。彼がモンドリアン・ルックを発表した1965年を映画のスタート地点としたのですが、それは、ディオールの後継者としての自分に幕を下ろし、サンローランとして開花した記念すべき年。その直後、時代の先駆者的な判断をした彼はプレタポルテを展開することになります。彼の人気を決定づけ“ストリートへの進出”を促すきっかけでしたね。
また非常に早い段階から、サンローランの代名詞とも言える2つのコレクションのみを、限定して取り上げることに決めていました。それは1971年の春夏コレクションと1976年のロシア・コレクション。
71年はヒッピー・ブームが起こっていたことから、物議を醸すことになったコレクションで、サンローランは自分の母親世代が着ていたような服装、つまり1940年代の映画スターたちが身にまとっていたファッションに対するサンローラン自身の憧れを追求したスタイル。世間は騒然となったものの、その6カ月後には誰もがヴィンテージ服を着ることになりました。76年はゴーギャン、ドラクロワ、マティスからロシアのオリエンタリズムに至るまでの、オリエンタルの影響を色濃く反映するコレクションです。
ショーのシーンは撮影時間としてはとても短く、1日で撮りました。ファッションショーのあり方が今とは違っているので、その時代のショーの見せ方をすることにこだわりましたね。しかし難しかったのは、撮影ではなく準備段階で、衣装作成が何より大変でした。当時のサンローランの衣装だと信じられるようなものにしなければならない。
そしてこれは映画なのだから、テレビでショーを見せるようなやり方をしてはいけないと思いました。服装が大切なのではなく、映画でのショーの見せ方をとても重視し、こだわりました。そのため、途中にフラッシュバックを入れたりスプリット・スクリーンを入れ、それらがひとつの絵となってそこに存在するということを意識して作り上げました。
かなりこだわった部分です。オートクチュールはすべてハンドメイドの特注仕立服です。アトリエ、お針子さんたちが働いている姿、そして彼らの上下関係をカメラで写し取ってみたかったのです。
アトリエのシーンはほぼ「ドキュメンタリー」。この映画のためにドレスを縫製するアトリエを作り、実際に現在も本職としているお針子さんたちを雇い、彼らの仕事をそのまま映すという、なんともリアルなシーンになって本当に満足しています。その人たちにもセリフを与え、より臨場感を出しました。
曲はすべてシナリオの段階で選びました。私は音楽もストーリーテリングの一部だと考えています。まずオペラはサンローラン自身が好きだった「マリアカラス」、その次に60、70年代にパリで流行していたソウルミュージック。バーでよく流れていた曲をリサーチしました。
そして、そこに私の作曲した音楽が加わります。私の作った曲たちは、オペラやソウルに比べると冷たく、70年代に流行したニューウェーブの音楽になっていると思います。オペラ・ソウル・私が作った楽曲の3ジャンルで、3層作りの音楽として仕上げました。
■ストーリー
「僕たちは20世紀後半の2大アーティストだ」とアンディ・ウォーホールに称えられたイヴ・サンローランだが、新しいデザインを生み出すプレッシャーに苦しんでいた。ブランドのミューズ・ルルやお気に入りのモデル・ベティ、危険な愛人ジャックと刹那的な快楽を求めているうちに、遂にイヴは1枚のデザイン画も描けなくなってしまう。
【作品情報】
『サンローラン』
公開日:2015年12月4日(金)TOHO シネマズシャンテほか 全国順次ロードショー
監督:ベルトラン・ボネロ
出演:ギャスパー・ウリエル、ジェレミー・レニエ、ルイ・ガレル、レア・セドゥ、ヘルムート・バーガー
原題:Saint Laurent
2014年/フランス/151分/カラー/ビスタ/5.1chデジタル
字幕翻訳:松浦美奈/後援:在日フランス大使館、アンスティチュフランセ日本