リック オウエンス(Rick Owens)の2015年春夏メンズコレクションで表現されたのは、デザイナー・リック本人のお気に入りだという、バレエ・リュスによる演目「"牧神の午後”への前奏曲」の世界観。その主人公である半人半獣の精霊「フォーン(牧神)」が今季のテーマだ。
ショーは序盤、ノースリーブのプルオーバーに、ひざ上丈のショーツ、そしてアディダスと制作したハードボリュームのブーツ“スプリング ブレード ハイ”をあわせた、ストリート感全開のスタイルが続く。シルエットは肩幅からショーツの裾幅までが統一されてスクエアに。トップスにはデニムなどヴィンテージ加工された素材が採用され、未来的なシューズとのコントラストが、ユニークさを増幅させる。
中盤にさしかかると、神話の世界はより色濃いものになっていく。巻き込むように伸びた一枚のスカーフを特徴とする、複雑なつくりのショーツを着用しているのは、フォーンをイメージしたと思われる上半身裸のモデル。またテーラードジャケットにドッキングされた光沢素材のストラップは、それを肩にかけることで、トガ(古代ローマの衣装)のようなスタイルに導いている。ダークなカラーとライトなカラー、軽やかなハイテク素材としっかりとしたレザー、そうした対照的な要素を複雑に組み合わせてつくられた、抽象画のようなデザインのウェアも続く。
そして終盤、登場したのは、ベースのデザインをかき消すほど大胆に刺繍が施されたトップス。人面のようにも見えるその刺繍は、どこか陰鬱な表情を浮かべ、何かをこちらに訴えかけてくるようだ。
物語のある服。今季のコレクションは、このテーマを徹底的に追及したように感じられる。そしてそのこだわりは、空想の世界を現実に引き寄せ、衣服の可能性をさらに大きく広げた。