ターク(TAAKK)の2024年春夏コレクションが、2023年6月25日(日)、フランス・パリにて発表された。
今季のタークのテーマ「GOD IS IN THE DETAILS (神は細部に宿る)」とは、多くの場合、建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉とされている。これに少しだけ補助線を引くと、実はこの言葉は、19世紀後半から20世紀前半にかけて生きたドイツの美術史家アビ・ヴァールブルクによって用いられたものでもある。
ヴァールブルクが主に対象としたのが、サンドロ・ボッティチェッリをはじめとするルネサンス絵画である。ルネサンスとは古代ギリシア・ローマの文芸の復興のことであったが、この時ヴァールブルクにとって、古代の造形を甦らせて生き生きとした息吹を与えるのが、波打つ衣裳の裾や、風に揺れる髪といった細部であったのだ。たとえば、ボッティチェッリの《ウェヌスの誕生》を思い浮かべればよい。
だから、今季のタークには、あたかも細波が震えるようなダイナミズムと静謐さが交錯している。それは、緻密な刺繍で波のようにファブリックを連ね、あるいは流動的な柄を縫いとったシャツやジャケットであるし、波打つように一面にリボンを織りなしたMA-1ブルゾンやパンツであり、あるいはフリンジのように震えるプリントシャツである。
このうち、刺繍という技法が、今季デザイナーの森川が徹底してこだわりたかったものであった。そこには、安直に流行のデザインや技法に従って、日本で培われた技術の数々が失われてゆくことに対する危惧があったという。ダブルブレストのテーラードジャケットに施した装飾模様や、ストライプシャツのフロントにあしらったブレードのようなモチーフにおいては、その精緻な技術によって静かに震えるような表情を織りなされている。
静かにたゆたい、その震えでもってダイナミックな息吹を感じさせるウェアには、オープンワークでリズミカルな格子模様を生みだしたベストやプルオーバー、甘くランダムな模様に編みあげたニットなどに観ることができる。また、鮮やかなプリントを施したロングコートやシャツなどには、薄く透け感のあるファブリックを用いるなど、風に繊細にゆらめく官能的な佇まいももたらされている。