映画『正欲』が2023年11月10日(金)より公開される。メインキャストを務める新垣結衣と磯村勇斗にインタビューを実施した。
朝井リョウの小説『正欲』は、2021年3月に発売され、第34回柴田錬三郎賞を受賞した作品。2009年に『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を、2013年『何者』で直木賞を受賞した朝井が、作家生活10周年の節目に書き上げた。
家庭環境、性的指向、容姿など様々に異なる背景を持つ人たちが、生きていくための推進力を模索する姿をリアルに描写している。「人が生きていくための推進力になるのは何なのか」というテーマを炙り出していく衝撃的なストーリーが波紋を呼び、“共感を呼ぶ傑作”か、“目を背けたくなる問題作”かと、今もなお話題を集めている。
朝井リョウのベストセラー小説『正欲』の実写映画化で話題を集める今作。はじめに、台本を読んだ率直な感想を聞かせていただけますか?
新垣:私は、はっきりと言葉にはできない“何か”を問われた気がしました。こういう人たちがいます、どう思いますか?って。正しいか否かではなく、純粋にどう感じますか?って、本を通して聞かれているなと思いました。
磯村:『正欲』の登場人物たちはみな“人とは違う指向”を持っている。そして自分は社会から外れている…と思って生きてきている人たちです。感情の強さは人によって違いますが、誰しも心のどこかに眠っている事じゃないかなと思いました。
なるほど。ちなみに作品からは、どのようなテーマを感じました?
磯村: “自分は自分でいいんだ”と感じてもらうことが1つのテーマだと思いました。観る人が共感できる、気持ちの拠り所になるような作品にしようと思って演じました。僕自身、劇中で描かれる社会からの疎外感や孤独にすごく共感できましたから。
新垣:このストーリーを他人事ではなく、身近なこととして感じてもらいつつ、“どう感じるのか、正しさとは何なのか?”を問いかける。テーマと言っていいのか分かりませんが、その問いかけに対して考えることをずっと大事にしながら、撮影に挑んでいました。
また、今作での役作りは相当難しかったと思います。いかがでしたか?
磯村:たしかに、感覚的に近づくのが難しい役柄ではありました。ある指向まで自分の理解を持っていくために、距離を縮めようとトライはしたことはあるんですけど…すごく難しいゾーンでしたね。
新垣:夏月たちが持つ指向については具体的に参考になるものが無かったので、自分なりにひたすら想像をしたり、映画『正欲』においてはこういう表現をしましょうと、監督とたくさん話し合って一つ一つ決めていきました。
磯村:僕も、衣装合わせの段階から話しました。その指向に近いものが自分の中ではどういうものなのかっていう置き換えで考えて、この役に寄り添っていったって感じです。
新垣:想像力が重要でしたね。
磯村:はい。この作品の肝だと思うので、考え抜きましたね。
新垣:でも人物像でいうと、本当に普通の人だと思います。なので人柄に関して特別な役作りはしてないんですけど、どの役も作品も基本はそうだと思いますが、“夏月はこういうとき、どう感じるのか”を、ひたすら想像していました。
想像力を働かせて役になりきったとき、どんな感情が出てきましたか?
新垣:常に体の周りに霧がかかったような重怠さ、しんどさを感じていました。
磯村:非常に窮屈な感じでしたよね。だから、どちらかというと苦しさの方が大きかった。
ともに10代から芝居を始め、これまで多彩な役柄を演じてきた新垣結衣と磯村勇斗。華麗なキャリアを持つ役者人生で心がけてきたことや、俳優業の魅力について話を伺った。
先ほども話題にあがった“役作り”において、大切にしていることはありますか?
磯村:とにかく、限りなくその台本の中に生きている自分の役に、心と身体を近づけること。もし体験できる事柄があれば、実際に体験することは大事にしてます。
新垣:医者や弁護士など専門的な技術を持っている役の場合は、スタッフさんが用意してくださった資料に目を通したりどんなお仕事なのかを調べておくようにします。人物像に関しては、あまり“役作り”らしいことはしたことがないかも…。ひたすら台本を読んで、“こういう時にこういう風に答えるってことは、こういう考えの人なんだろう”と、役の心情や考え方を理解するようにしています。
磯村:例えば『正欲』では、佳道という役の人生を数ヶ月、数週間背負うことになる。だったら、彼の生きている時間をすごく濃密にしたいなと思うので、映画で切りとる時間が横軸だとしたら、縦の厚みと奥行きを増やしていくことを意識していますね。
他人の人生を演じるのは大変な反面、役者としての魅力でもありますよね。お2人が考える、役者の1番の魅力とは…?
新垣:私は、“自分の知らなかった世界を知れること”が、魅力だと思っています。自分が出演していないものでも、ドラマや映画を観て知れた世界がたくさんあるので。もちろんほとんどがフィクションですけど、空想だとシャットアウトするのではなく、そういう世界もあるんだなって思えたらいいですよね。
磯村:僕はやっぱり役でもお芝居でも、“正解がない、ゴールがない”ところが魅力ですね。自問自答して深く考えながら演じている人たちが多いので、そこに役者たちを魅了する何かがあるのかなと。入り込みすぎてもよくない時はありますけど、日々模索し続けることが大切な仕事だと感じています。