ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)の2023年春夏コレクションが発表された。
ハルノブムラタの今季の着想源となったのが、現代写真家モナ・クーン(Mona Kuhn)の作品、とりわけその写真集『PRIVATE』だ。アメリカ南西部のモハーヴェ砂漠で撮影された作品を収める同作では、太陽の光が照りつける砂漠の光景、風に侵された大地、あるいは乾いた動物の骨や植物の姿が、人間の曲線的な造形と対比的に捉えられている。コレクションでは、厳しくも官能的なクーンの作品の雰囲気を反映し、質感に富みドレープ感あふれるウェアを展開する。
ドレスやスカート、ジャケットといったウェアはいずれも、ハルノブムラタならではのミニマルでエレガントなシルエットで仕立てられている。そこには、砂漠に吹きすさぶ風を受けて、有機的に形を変えてゆく大地と、人の身体の官能性とが、いわば互いに溶け入っている──先の「対比的に」という言葉は、だからここで柔らかく翻されることになる──と言ってもよいのかもしれない。
たとえばドレスは波打つようにドレープを揺らめかせ、ブラウスは空気を孕むようにしてスリーブを大きく膨らませる。一方、テーラードジャケットはややリラクシングなサイズ感に設定しつつ、あくまで仕立てはシャープな雰囲気に。バックに大胆なスリットを入れるなど、構築性のなかにも艶かしい官能性と軽やかな運動性を取り入れた。
素材もまた、砂漠の光景を映しだしている。軸となるのはシルク素材であり、ドレスをはじめ、その精細な質感と上品な光沢感を際立てたアイテムに使用されている。また、なめらかな素材として用いられる印象の強いシルクをあえてざらつきを帯びたファブリックとして用いるなど、砂漠を織りなす砂の粒子を彷彿とさせる、豊かなテクスチャーも表現されている。あるいはテーラードジャケットには、光沢を持ちつつも柔らかな肌触りをもつテンセルを採用し、ミニマルな仕立てと快適な着心地を両立させた。
カラーは、ミニマルな造形性を引き立てるブラックとホワイトを基調に、砂漠の光景を彷彿とさせるベージュを多く用いた。また、焼け付くようなテラコッタ、乾いた砂漠をみずみずしく潤すかのようなスカイブルーやライトグリーンも取り入れ、上品な光沢と調和する彩りも随所に差し込んでいる。