グッチ(GUCCI) 2023年春夏コレクションは、クリエイティブ・ディレクター アレッサンドロ・ミケーレの“ふたりの母”が着想源。「Twinsburg」をテーマに、“ALL双子”モデルを起用したランウェイが幕を開けた。
双子の母親を持つアレッサンドロ・ミケーレは、子供時代、彼女たちの遺伝子レベルを超えた深い深い絆を目の当たりにしてきた。まるで反射鏡のように同一に見えながらも、異なる性質を持ち合わせ、互いを補完し合う神秘の関係性。そしてそんな二人から惜しみなく注がれる“二重の愛”が、アレッサンドロ・ミケーレをすくすくと育み、同時に彼にとっての憧れの存在へとも変化していったのだという。
そんなアレッサンドロ・ミケーレのアイデンティティにもまつわる“双子”が、今季の大きなキーワード。双子モデルを起用した演出は、オリジナルとコピーの関係性に緊張感を創出しながら、衣服の存在意義を問うていく。果たして魔法のように生産された衣服は、唯一無二の存在価値を失うのだろうか──?その答えを実験的に探るコレクションは、これまで同様、グッチらしい折衷主義を取り入れた、実に多様なムードに満ち溢れている。
目を惹くのは、ファーストルックから登場したユニークなテーラードルック。カットアウトされたパンツは“ガーター風”へとアレンジを加えられ、時にショーツ(丁寧にシャツまでインサートされている)まで大胆にみせたルックも登場する。
一方で、1990年代のロゴ入りベルトで、ウエストをシェイプしたスタイルや、ミニマルなエッセンシャルスーツなど、過去にプレイバックしたようなテーラードスタイルも登場。時折差し込まれるアニマルパターンや、シャイニーなテクスチャ―がコレクションを特徴づけ、より自由なムードを加速させていく。
チャイニーズカルチャーに着想した、オリエンタルなピースの数々も見逃せない。艶やかな花が描かれたシノワズリなドレスは、袖口からこぼれそうなほど落ちるビーズの装飾が印象的。また“へそ出しスタイル”のセクシーなチャイナ風カットソーや、オリエンタルなディテールをプラスしたドラマティックなロングドレスなど、異世界に紛れ込んだかのようなルックの数々が、観客をグッチの世界へと誘っていく。
1980年代のキャラクター「グレムリン」を起用したアイディアも、今季ならではの面白さ。グレムリンのマスコットをぺたりとそのまま張り付けたようなルックがあるかと思えば、キャラクターの顔が覗く、ユニークな生地のドレスも登場。また時には“もこもこ”のシューズとなって、クラシカルな装いに楽し気な表情をもたらしているのも、グッチらしい取り組みだ。
乗馬の世界にインスピレーションを得て1981年に登場し再解釈されたバッグや、クリスタルでカバーされたテディベアのポシェットなど、ランウェイには豊富な新作アクセサリーも登場。それと同じくらい存在感を放っていたのが、顔周りに施された独特な装飾である。繊細なビーズのようなピースが、目周りを覆っていたり、耳からぶら下がっていたり。時には新作アイウェアと装飾一体化したような、サングラスなども登場した。
これらのコレクションを振り返りながら、もう一度最初の問いに戻ろう。衣服とは増殖することで、そのアイデンティティを失うってしまうのだろうか?──その答えは、恐らく、そして願わくばNOでありたい。何故なら双子の存在がそうであるように、ひとりとして同じ性質を持った人間は存在しないのだから。袖を通すことで生まれる個性こそが、洋服を纏う楽しみであり、そして最も純粋たる表現であること。これこそが、“ALL双子モデル”という異色な演出を通して、アレッサンドロ・ミケーレが最も伝えたかったことなのだろう。