ジル サンダー(JIL SANDER)の2021年秋冬メンズコレクションが発表された。
ぴんと張りつめた緊張。ドライウールのテーラードジャケットは、直線的でシャープなシルエットを基調に、細身のパンツとともに洗練された雰囲気に仕上げられた。ポケットも含めて装飾という装飾を“ほとんど”排しているものの、ボディにはジップポケットの鮮烈な金属光沢が走り、澄みきった水面に波紋を広げるようにして震えるような緊張感を高めている。
同様にロング丈のコートも、ユニフォームを基調として、身体にフィットする端正なフォルムに。特徴的なのは首回りのデザインであり、首を囲むようなハイネック仕様のダブルブレストコートや、大ぶりな襟が存在感を示すステンカラーコートなどを取り揃えた。
緊張感を湛えるスーツやコートとは対照的に、ニット類は洗練されていながらも温かみのある雰囲気を添えている。楔を打ち込んだかのように鋭い幾何学的グラフィックを配したタートルネックニットには、凛としたホワイトとグリーンを。丸みを帯びたグラフィックをのせたクルーネックニットには、温かみを感じさせるレッドとバーガンディを。いわば色彩とグラフィックとが、互いに反響し、共鳴し合うような効果を演出している。
コレクション全体の基調をなすのは、無機的な表情を醸しだす無地のウェアだ。その一方で、1920年代に写真家フローレンス・アンリによって撮影されたバウハウスの女性アーティストやデザイナーのポートレート写真は、拡大してキャンバスにプリントされ、テーラードジャケットやコート、ニットにあしらうことで大胆な表情をもたらした。
テーラードジャケットに用いたジッパーのみならず、随所に使用された金属も印象に残る。鮮やかなミントグリーンのコートやブラウンのオーバーサイズシャツでは、縦に並んだフラップボタンがリズミカルなアクセントを奏でる。他方で、シンプルなシルバーパーツで構成された胸当てや首飾りも、その無機的な輝きでもって、張りつめたように震えるウェアの緊張を引き立てることに寄与している。