ヨシオクボ(yoshiokubo)の2021年秋冬コレクションが発表された。
ぬらりと底光りする黒、着物風ジャケットのセットアップの艶やかな質感。ふと、こんなことを思い出した──京都の大徳寺・瑞峯院(ずいほういん)を訪れたおり。茶室の安勝軒に足を踏み入れると、木と土壁と畳とに封じ込められた空間には、障子を通して柔らかな光が満ちていた。ふと手前の柱を見やると、椿の花を生けた竹の筒が掛かっている。目を引いたのはぷっくりと艶やかに咲く椿ではない。ぬらっと底光りする竹の表皮だ。
今季のヨシオクボがテーマとしたのは、「幽玄」であるという。とはいえ今ここで幽玄について詳らかにするのは手に余る。むしろヨシオクボが提示したものを取り上げることで、いわばそれらの照り映えとしての幽玄の感覚にふれたい。
基調にあるのは、ゆったりとしたサイズで仕立てられたベーシックなメンズウェア──ブルゾンやジャケット、シャツやプルオーバーなどなど──といえる。しかし、大胆に前合わせを斜めに走らせたダッフルコートや、ねじるようにして布地をフロントにあしらったプルオーバーなどには、端正な伝統建築に現れる大胆な、時にマニエリスム的な曲線や傾斜が映しだされている。
ところで寺院の壁には、ゆらりと火の灯った蝋燭を思わせるシルエットの窓が設けられていることがある。これは火灯窓と呼ばれ、時としてその奥に庭園が見える様子はさながら絵画のよう。絵画を「窓」に喩えたのは初期ルネサンスの建築家アルベルティであったが、スポーティなこのブルゾンではむしろ、窓と庭園から受けた光の像を映しこみ、大胆なカッティングの下に樹木のシルエットが揺らめいているかのようだ。
グリーンやバーガンディ、ベージュやブラック──それら、形あるものが腐敗の過程で示す色彩の基底にあるのは、盛りを迎えては朽ちてゆく花、その一瞬の美しさを言葉に留めおく和歌の時間感覚に近いのではなかろうか。移ろうがゆえに移ろうその一瞬をいとおしみ、そうして自然の深く緩やかな呼吸に寄り添う。深みのある色彩には、そういった身振りを見てとっても良いのかもしれない。