matohu(まとふ)が2011年10月18日に2012年春夏コレクションを発表した。日本人の独特の美意識を服作りを通して表現してきたまとふの「日本の眼」シリーズの第4章となる今回のコレクションのテーマは「映り」。
一つだけではありふれていて気にも留められてこなかったもの達が、互いに映しあうことで新鮮な美をつくり出すという、日本人独特の美意識に焦点を当てた。 ファッションでは、それは色と色であり、素材と色であり、そして服とそれを着る人の「映り」に当たる。それらが偶然に出会ったとき、「映す・映される」関係性はもはや消え去り、ただひとつ「映り」の美だけが静かに立ち上がってくる。
藍色や浅葱色のブルーのバリエーションをメインに、山吹色、薄紅色、渋い紫、黄色、そして翡翠や若草のようなグリーンなど、「まとふ」ならではの深い感性が導き出したカラーパレット。長着の裏地や、ジャケットの裾や袖口からちらりと見える明るい色使いが、新しい季節の到来を告げている。生成りにブルーや赤が爽やかなボーダーは、マリンっぽくならないようにトーンや素材について試行錯誤を繰り返したという。軽やかに舞う花びらのような模様は、画用紙に水彩で描いた模様を刺繍に落とし込んだ。シースルーの布地の上をブルーのグラデーションの花びらで覆いつくしたワンピースは、春の雨にぬれてしっとりと輝くアジサイのよう。
生地は天然素材をベースに様々な繊維を組み合わせることで、ナチュラルなだけではない、張り感やニュアンスが生まれている。縦糸と横糸の色を変えて織り上げ、光の角度でその表情を変えるシャンブレーは、糸を染める過程からこだわり製作された。薄紅色のジャカード生地は、織り模様が控えめな陰影を作り出し、桜のような儚い美しさを湛えていた。
シルエットには、すっきりとしたシャープな印象と、ナチュラルでリラックスした雰囲気が共存している。長めの丈のノーカラージャケットのバックスタイルは、グラフィカルなパターンが裾に向かって構築的なフレアを作り出した。
会場は7月にオープンしたばかりの表参道本店。「自分達で一から作りこんだ空間でのショーだったからこそ、その空間が持つ風や光といった空気感と服が一体となったまとふの世界観を表現できた」と、デザイナーの二人は語った。イメージしたのは、レディス、メンズといった垣根を越えて、みずみずしい生命力とそこはかとない色気を持った人に「映る」服。着る人の個性と映し合ってこそ、初めて完成される美の物語を、今季のテーマのきっかけとなった紺碧の版木が、白い一輪挿しの下で静かに見守っていた。