サンローラン(Saint Laurent) の2016年春夏コレクションを、フランス・パリで発表した。エディ・スリマン自身が設計を手掛ける恒例のショー前の光の演出は、横線の光の束があたかも波が崩れるように形を変え、七色の光を発している。そして、波のチューブからサーファーが飛び出してくるようにモデルが現れ、ショーは幕を開けた。
ファーストルックは、チェッカー柄やヒョウ柄でパッチワークしたライダースジャケットに、くるぶしの上でカットオフしたブラックジーンズ(少しだけ裾がフレアしている)の西海岸調のロックなスタイル。インナーはフリルシャツがプリントされたトロンプイユなリンガーTシャツで、足元は汚れ加工を施したスニーカー、サングラスはニルバーナのカート・コバーンを連想させる白フレームのオーバル型だ。
それに続くのは、花の刺繍のオーバーサイズのカーディガンに、ヒョウ柄のストールを巻いた男。3人目はライトブルー×ヒョウ柄のサテンブルゾンを、最初と同じブラックジーンズとスニーカーに合わせているが、ここでふと違和感を感じた。前回のスーパースキニーなモデルたちとは違い、背が小さく太腿も太いのである。その後も大きすぎず細すぎずで、なかには170cm程度の普通体型のモデルもいたりする。
少し話が前後するが、会場の席にはパームツリー柄のプリントが描かれていたが、中盤に入るとその意味が分かった。70年代のハンテンなどのサーフブランド調のボーダーシャツ、ヘムをほつれさせたネルシャツ、ハイビスカスのスパンコールのブルゾンやパームツリーをプリントしたスカジャンなど、サーフィンと西海岸を連想させるアイテムを織り交ぜてきたのだ。サンローランには珍しい“サーフ”のエッセンスは、いつもの完全無欠のロックスタイルに程よいユルさを加えている。
サーフの後にはさらなる驚きが待っていた。ボーダーTシャツに古着っぽい柄シャツ、パープルのパイピングのカーディガンをはおった男は、両膝に穴の開いたストレートのブルージーンズを穿いている。繰り返すがサンローランのストレートジーンズである。太ももや裾幅は某ジーンズの代名詞を連想させるようなシルエットで、サンローランとは思えない太さだ! その様はまるでカートの生き写しのようで、90年代のグランジにオマージュを捧げていることが分かる。
アウターで目立つのは、ライダースジャケット、フリンジのスウェードジャケット、スパンコールで飾ったタキシードジャケット、スカジャン、メキシコ調の生地やヒョウ柄のバーシティジャケットなど。インナーはチェックのネルシャツとボーダーTシャツを重ねたスタイリングが多く、パンツは少しフレアしたブラックジーンズとストレートのブルージーンズの2択。靴はローカットとハイカットの白スニーカーのみ。小物使いでは、ノベルティ物のようなベースボールキャップ、大きめのニットキャップ、ロングストールなどが目を惹く。
パリはゆったりしたシルエットが全盛だが、エディはそんな流れは眼中にない。“サーフ”という新しい要素が入っているとはいえ、根底に流れるのはロック以外の何物でもないからだ。しかし、モデルのチョイスをがらりと変えたことで、「細くなくては着こなせない」という強迫観念はいい意味で薄まった。それを民主化ととるかどうかは受け手しだいだが、私見ではこれまで以上にロック色が強くなったように思えた。
TEXT by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)