ミハラヤスヒロ(MIHARAYASUHIRO)の2011-12年秋冬メンズコレクションのテーマは「The Nihilists」(ニヒリスト)。「耽美的」「退廃的」「懐疑的」といった言葉で語られる、19世紀末を生きた作家、オスカー・ワイルドからインスパイアされ、彼が持っていたアイロニックな思想とユーモアに溢れる作品を対比させることで、その2つの相反する状態(緊張と緩和)を服に置き換えた実験的なコレクション。
メインの素材であるニットやジャージーの特徴を活かし、ツイスト、スライドといったユニークなシルエットを実現。一見布帛に見えるスーツはカットソー素材、Pコートやダッフルコートに用いられたメルトン生地はニット素材から、そしてツイードのように見える3ピースはスウェット素材の1枚仕立てで作られている。2010-11年秋冬シーズンに発表したフォトジャカードの手法が、新たにケーブル編みのニットとして登場し、英国羊毛のケーブル編みニットはダウンベストやダウンマフラー、バッグに変化した。また、ミハラヤスヒロを象徴する手法「あぶり出し」の技術を、今季はバッグだけでなくレザーのジャケットやブルゾンに応用し、これまでにないデザインを打ち出している。
片側の袖がケープのように変形したトップスやコート、襟の片方がショールのようなジャケットなど、アシンメトリーなデザインもポイント。前はツイード風、後ろはケーブル・ニットになったルックも個性的。白のラインやアーガイル柄、ハーフパンツがさわやかでボーイッシュなルックから始まったコレクションは、次第にパターンがゆがみ、切りっぱなしの裾がほつれてくる。襟もとに飾られたビジューや、ドレッシーなアイテムが加わると、デカダンスな雰囲気が色濃くなってゆく。
シューズでは、今コレクションの時代背景をもとに、19世紀末のイギリスで好まれたクラシックなレースアップシューズに大きくねじりを加え、そこに後染めを施すことで、長い年月をかけて履かれたような経年変化を再現している。さらには、オスカー・ワイルドの作品のひとつである「幸福の王子」に登場する黄金の王子像のように、黄金が剥がれてゆく様を金箔で表現したシューズなど、特殊な加工や染めを施すことで、彼が生きた時代背景や彼の作品の世界観を表現している。
オスカー・ワイルドが19世紀末の時代を鋭く捉え、批判精神に基づく独自の思想を抱きながら生きたように、これまでに培ってきた多種多様な縫製、素材、加工の技術を駆使したミハラヤスヒロ独自の視点で作りあげられたコレクションに今季も注目だ。