ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)が2014年6月26日(木)、2015年春夏メンズコレクションをフランス・パリで発表した。インビテーションには小津安二郎の1953年の作品『東京物語』の家族団欒の写真がプリントされていて、その上にヨウジヤマモトのブランドロゴが書かれている。果たしてこれは何を意味するのだろうか?
ファーストルックは、「Y」の文字が模様として組み込まれたジャカードのセットアップスーツ。ジャケットはノーカラーのロング丈で、パンツはワイドシルエット。インナーにはフリンジのチャイナシャツジャケットを合わせている。その後も、パープルベースのジャカードのスーツ、レザーを絞り染めしたようなスーツなど凝った柄物のセットアップスーツが続く。ノーカラーやアシンメトリー、部分的に破れたようなものなど、デザインも凝ったものが多い。
中盤に入ると、ブラウンのレザーのパッチを無造作に配した黒のセットアップスーツや、ジャケットとガンホルダーを融合させたような半身の黒のジャケットなど、ヨウジらしいピースが登場。ストライプのジャケットに別のストライプの布を当ててミシンで補修したような往年のボロルックを連想させるような表現は、モノを大切にしなくなった日本人に警笛を鳴らしているように思えた。
ディティールでは、多ボタン使いに目を奪われる。ショート丈のスペンサージャケットは、フロントボタンを止める数が12個。その両横に並列で12個のボタンをデザインとして並べ、首回りにもたくさん付けているから、1つのジャケットに40個以上ものボタンを使っていることになる。学ラン風の立ち襟のジャケットは、ブラウンのボタンをフロントに加え、肩線にもボタンを配している。サイドポケットの裾にボタンを配置したマリンパンツもある。
後半は、オーバーサイズのデニムのセットアップ、ペンキで撫で付けたようなスーツを並べた。カラーパレットは、ブラック、ブラウン、パープル、グリーン、デニムのブルー。素材はウール、レザー、デニム、リネン、コットンとバリエーションは様々だ。
また、プライベートでミラノ・パリコレクションを見に来ていた俳優の栗原類がモデルとして登場。前日にオーディションを受け、急遽出演が決まったというが、歴戦のモデルたちに負けない孤高の存在感を放っていた。
さて、東京物語の写真の意味をひも解いていこう。最後の数体で見せたジャケットの背中にはパンクのライダースジャケットのような写真入りのメッセージが書かれている。「MISSING CAT」の文字の猫の写真は、街中にしばしば張ってある「猫を探して下さい」のパロディだが、その中に山本耀司本人の写真と「PERDU」と書かれたものが混じっている。フランス語で「失われた」を意味するこの言葉。ネクタイやジャケットに描かれた「MADE IN JAPAN NO.1」の文字と掛け合わせると、山本が日本製の素晴らしさを訴えつつも、それが失われつつあることを嘆いているように思える。
東京物語で小津が描いた世界は、日常の出来事のなかで誰もが経験する別れという“孤独”である。半年ごとに新しいモノを生み出さなければならない孤独と長年向き合ってきた巨匠の心の叫びが聞こえてくるようなコレクションだった。
Text by Kaijiro Masuda (FASHION JOURNALIST)