ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)の2022-23年秋冬コレクションは、渡邉が作りたいと思うシルエットを“ライダース”、“フライトジャケット”、“ウールチェックジャケット”の3つの要素を使って製作している。
インスピレーション源となったのは、イギリスのミュージシャンであるデヴィッド・シルヴィアン(David Sylvian)とドイツのミュージシャンであるホルガー・シューカイ(Holger Czukay)によって1980年代に録音された「light(the Spiralling of Winter Ghosts)」という楽曲。その中でもとりわけ曲のサブタイトルである“The Spiralling of Winter Ghosts(冬の幽霊たちのスパイラル)”から強く影響を受け、詩的で美しい作品を今季のムービーを作る上でのイメージソースに採用した。
彼らの音楽はいわばアンビエントミュージックだが、やすらかで、おだやかな音と、奇想天外な音が交ざり合う。偶然と必然が交錯するかのような音の流れは、今季のデザインの趣としても感じられる。
渡邉が作りたいと思うシルエットはというと、極めてマニッシュとも思える3つの要素とは対極にあろう、古典的なドレスルックを彷彿とさせるシルエットのようだ。鈍い艶をもつカーフやラムの本革、あるいはフェイクレザーのライダースは、解体と再構築を経てゴージャスなドレスを築いている。“ライダース”の欠片をパズルのように当てはめた1着には、ベルトループやポケットのディテールなどかつての面影が色濃く残り、それぞれが新たな装飾物として存在する。
ドレスの立体的なシルエットに欠かせないパニエに代わって、レザーの硬質的なテクスチャーとシルバーのジッパーが骨組み的な役目を担い、ボリュームのあるスカートやペプラムのシルエットを自然と完成させている。
次に“フライトジャケット”はどうか。ミリタリーの典型であるこのアイテムもまた、意外にクラシックなドレスルックとある意味相性がいいようだ。“フライトジャケット”の素材として代表的なカーキのツイル生地は、本格的な軍服を彷彿とさせる一方で、フレアスカートの柔らかくふくらむシルエットを築くには非常に効果的。特に、かつての西洋貴族たちが身に着けていた、ドレスの重厚感をナチュラルに生み出しているようにも見えるから不思議だ。
それはディテールにも通ずる。ジッパーで変形できるフード部分は、エリザベスカラーに似た襟元を演出し、ジッパーを張り巡らせたトップスはコルセットを彷彿とさせる。
“ウールチェックジャケット”は、“ライダース”と同じく、解体され、パズルのように再構築されることで新しい顔を見せている。チェックのパターンは多種多様だが、タータンやマドラスなどのはっきりとした色・柄ではなく、ごく控えめなもの。特に、グレンチェックやガンクラブチェックといった上品かつクラシカルなパターンと、ブラウンやグレーの落ち着きあるカラーを主軸にすることで、この過激な表現をトーンダウンさせている。
“ライダース”と“フライトジャケット”がそうであったように、“ウールチェックジャケット”の名残も感じられる。美しいジャケットに欠かせないなだらかなカーブのパターンやカッティングが随所に見られ、それが継ぎはぎされることで生まれた不思議なボリュームが、渡邉の望む古典的なドレスルックにマッチしている。