フェンディ(FENDI)の2021年春夏クチュールコレクションが発表された。
キム・ジョーンズがアーティスティック ディレクターに着任して初めて手がける、今季のクチュールコレクション。同時に、これまで秋冬シーズンで発表してきたフェンディのクチュールであったが、今季は初の春夏での発表となる。
今季のクチュールコレクションの主たる着想源には、ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』が挙げられる。青年貴族オーランドーが女性の身体へと変身し、衣服や他者とのやり取りなどを通して女性としての自覚と喜びを得てゆくこの物語は、今季のコレクションにおけるジェンダー的な記号の流動性に反映されているとひとまずはいえよう。
花園に咲き乱れる花のようにムラーノガラスを散りばめたドレスには、トップの片方にノーカラージャケットを、もう片方にミンクファーを使ったオフショルダーを組み合わせた。また、穏やかなグリーンのドレスにおいても、しなやかに流れ落ちるドレープと長めに設定されたスリーブが、ノースリーブと大胆なコントラストを織りなす。視覚的な構造だけでなく、身体を取り巻く感覚に至るまで、鮮やかなほどにアシンメトリックな表現が試みられている。
さて、フェンディにとってクチュールコレクションとは、メゾンのルーツであるファーの手法を切り拓く場でもある。たとえばプルオーバーのトップスには、ファー素材を編み込んだニットを使用。その肌理は天上的なまでに柔らかくなめらかであり、あくまで軽やかに仕上げられている。また、手にしたクラッチバッグは、ほかでもなく『オーランドー』をモチーフとしたブック型である。
また、艶やかな大理石模様のドレスに重ねたマントには、ファーをパッチ状にカットし、それらを緻密に組み合わせることで構築。とりわけ裾にかけては、照り映える月光を思わせるファブリックが水の流れさながらにドレープを織りなすドレスと似て、ファーの分量をふんだんに取ることで流麗な雰囲気を漂わせる。その一方でパッチ自体は、まるで空間に敷き詰められたかのように並び、静かに震える水面のごとく繊細な表情を織りなしている。流麗であり静謐でもあるというこの両極性──そこに、姿を変えて境を惑乱してやまない、水のごとき流動性を見てとっても良いのかもしれない。