ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)の2021年春夏コレクションが発表された。テーマは「ペルソナ」。
人は生きていて「素顔」を見せるだろうか。──「ペルソナ」、それは心理学者のユングが、“自己の外的側面”を指すために用いた概念である。なるほど、自己の素顔を曝け出したまま他者と関係を紡ぎ出すのは居心地が悪い。しかしまた、仮面をつけたまま自分の本心を押さえ込んでしまう歯痒さもある。外面と内面の齟齬。たぶん、ほかでもない自分がこの齟齬に感じる“痛み”の感覚こそが起点になるのだ。今季のドレスドアンドレスドでは、ひとりの男性がこの仮面を脱ぎ捨て、螺旋階段を降りるようにして自己の内面を露わにしてゆく。
外面としての仮面を脱ぎ捨て、内面を露わにする──その過程を衣服の姿に留めおいたのが、通常は裏地に用いられるキュプラから仕立てたテーラードジャケットやトレンチコートなどであろう。端正なテーラリングは通常のそれとは異ならないものの、しなやかな落ち感でもって身体に寄り添い、歩みに合わせて揺れ動くそのさまは、優美という形容がふさわしい。
また、もともと光沢感をもつこのキュプラ素材には洗い加工が施され、鈍いきらめきが上品な表情を醸し出す。ドロップショルダーが艶やかなシルエットを描くラボコートは、じゅうぶんに長い丈感で仕上げられ、片方の肩を露わに身に纏えば、さながら官能的なドレスのようである。
ところで今季の製作は、アーカイヴのジャケットなどに緻密なクチュールを施すことに始まったという。屈強なエレガンスを放つダブルブレストジャケットやシャツは、一見するとストライプが施されているようであるが、実際には丁寧なステッチで仕上げられている。光沢感のある糸は裾や袖下に垂れ下がり、きらびやかなその姿は舞台衣装をも思わせる。
また、ジャケットには等間隔なドットよろしくアイレットをあしらって。強烈な光が織りなす明暗の強烈なコントラストを落とし込むかのように、シェルボタンを密に縫い付けて。それらが孕んだきらめきは、あくまで緻密なクチュール──言うまでもなく、刺繍などを施した繊細華麗なドレスを支える技術であり、膨大な労力を要する手仕事でもある──によって叶えられているのである。
哲学者の和辻哲郎は「面とペルソナ」において、人の表現は顔面に切り詰めることができるが、たとえば注意深く感情を削ぎ落とした能面も「手が涙を拭うように動けば、面はすでに泣いている」ように、顔面は再び肢体を取り戻すのだと記している。こうして「面」は、精彩に満ちた人格と結びつく。今季のドレスドアンドレスドも、性的区分にとらわれない内面性を、衣服というかたちでしなやかに形象化していると言えるのではなかろうか。
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