リック・オウエンス(Rick Owens)の2018-19年秋冬コレクションがフランス・パリで発表された。
ギリシャ神話の一説である、神々を欺いたことで、巨大な岩を山頂まで運ぶという罰を受けたという「SISYPHUS(シーシュポス)」の話をもとに今回のコレクションは完成した。巨大な岩は、もう少しで山頂が手に届きそうになると重みで転がり落ち、永遠にこの苦行が繰り返されるといった苦悩を描く物語。
そして、この話を自身の考えと重ね合わせたのが今季のランウェイだ。リック・オウエンスが考える「世の中のために自分が何ができるか」ということに対するジレンマだったり、表現への規制にたいするフラストレーションだったり、そういった想いを巡らせ至った答えのひとつなのだろう。
大きく穴のあいたニットトップスは一種の現代アートのようだが、その中には機能的なボディバッグを装着している。縫い代は外に飛び出したまま、ヘムも切りっぱなし。ディテールの粗さまでもが、リックの今の気持ちを体現している。デニムパンツは解体され、まるでスカートのような形。フルレングスのパンツは、これまで同様スーパーワイドで、丈も引きずるほどの長さだ。
数あるアイテムの中でも、特筆したいのはアウター。ケープ型やノーカラーなどは、ブランドには珍しく比翼に仕立てたり、スナップボタンを採用したりとミニマルなフォルムで登場している。そうかと思えば、バックスタイルが個性的で、素材の切り替えでリップストップなどの軽い素材を挿入することで、動きに余韻を残すシルエットも提案。これまでにもあった、“服をむく”発想から「BANANA」と名付けられたトップスは、後ろにジッパーが施されており、スタイリングではこれを全開にして身に着けている。
素材は、もっちりとしたハイゲージニットなど、見覚えある素材だけでなく服の概念を越えたファブリックが今季も登場する。なかでも目に留まったのは、カシミア素材のニードルパンチ。通常の工程を幾度も繰り返したことにより、柔らかさがほとんどない工業製品のような手触りだ。また、糸がくるくると飛び出たシルクとプラスティックからなるファブリックも、今季のスペシャル素材と言っていいだろう。
これがジレンマや不満に対する怒りみたいなものを表現するランウェイなのだとしたら、これまで想像を逸脱する表現で魅せてきたリック・オウエンスにとっては比較的シンプルだと感じてしまう。それはもしかしたら、奥に秘めた何かをまだ眠らせたままだからかもしれないし、吐き出すのが馬鹿馬鹿しいと思ってのことかもしれない。しかし、会場には耳を劈くような音楽と、目をくらませるほどの眩しいライト。洋服も抱合した空間全体が、リックの揺れ動く心情を表しているのだろう。