パリ・ファッション・ウィークが開幕。日本ブランド・アンリアレイジ(ANREALAGE)は、初日の2016年9月28日(水)に2017年春夏ウィメンズコレクションを発表した。テーマは「サイレンス」。そしてこの後には、「沈黙の中に声を探す、声なき服に耳をすませば」というメッセージが添えられていた。
毎度実験的な取り組みを行っているアンリアレイジだが、今回はコレクション発表前に専用アプリを開設。アプリをダウンロードし、スマートフォンをかざすことで、AR(拡張現実)とサウンド演出が行われ、違った形でショーが楽しめるという。会場では、観客席の前にiPadが設置され、その画面を通じて最新ルックを確認することができた。
昨シーズンに引き続き、サカナクションの山口一郎が手掛けたサウンドは、「サイレンス」という言葉からは想像できないほど大きな音が用いられていた。初まりは、ピーっという高音と地響きのような振動音が耳が痛くなるほど大音量で流され、ピタっと止まると同時にモデルがランウェイに登場した。
白と黒のボーダーとストライプ模様で彩られたルック。線の太さやラメ加工の有無などの違いはあるが、ほとんど同じような色柄の羅列だ。シルエットは全体的にフレアで、マントやロングスカート、スリット入りのワイドパンツが並んだ。だた、iPadの前を通り過ぎても何も変化はなく、観客席からは少し不思議な表情が浮かぶ。せっかくのせたロゴやエンブレム、花模様にも打消し線のような黒い線が重ねられていて、洋服の顔がつかめない。
その「?」を待ち望んでいたかのように、デザイナーの森永邦彦は仕掛けを投じる。森や海、花畑をモノクロで描き、不可思議な黒い帯状のものを合わせたワンピースをランウェイに送り込んだ。
観客席前のiPadの前に立つと、静かにしてと言わんばかりに「しーっ」という声が流れる。数秒経つと、キラキラとした音とともに黒い帯状のものが画面上で変化し、洋服の模様を拡大して見せてくれた。
続くのは、メッシュの白いワンピースを着たモデル集団。そして黒い帯状のものはパワーアップし、2~3本巻かれている。それぞれに何か文字が記されているが、序盤同様に打消し線が引かれていて判別はできない。先ほどと同様に、iPadの前に立つと今度は、帯状のものが消え去りロゴが浮かび上がる。と同時、ロゴの声が聴こえてくる。「NOISE」「SILENCE」「SOUND」「VOICE」といった具合に。
森永のチャレンジは、ユニークで新しい可能性を秘めている。本来は視覚、そして着心地や手触りといった触覚で楽しむファッションを「聴覚」という観点でも喜ばせているからだ。将来自分のクローゼットから、こういった形で洋服の声が届く日が来るかもしれない。そんな淡い期待を抱かせてくれるものだった。