ヴェイン(VEIN)の2025年春夏コレクションが、2024年7月8日(月)、東京・原宿にて発表された。テーマは「Time Picture」。
カメラを手に取り、何か、心惹かれたものにレンズを向ける。シャッターを切る。するとたちどころに、目の前にあるものがイメージとして定着される──目の前にあるもの「すべて」と言ったほうがいいかもしれない。なぜならカメラは、意識しようとしまいと、その時レンズで捉えたものすべてを写しだしてしまうのだから。
ことによると写真の魅惑とは、〈いま・ここ〉という繰り返しえない一瞬の表情を、ややもすれば意識しないにもかかわらず写しだしてしまう点にあるのかもしれない。再現しえない〈いま・ここ〉という一回性──すなわち「アウラ(aura)」とは、2024年春夏シーズン以降、ヴェインに底流する考えであったようだ。そして今季のヴェインにとって〈いま・ここ〉とは、抗いがたくも写真が捉える身近な光景、その再現しえないささやかな感情であったといえる。
それはたとえば、ヴェインのデザイナー・榎本光希が写真に捉えた、自身の息子の姿。リラクシングなシルエットのパンツがその身体を覆い、一瞬のうちに織りなす「思いがけない」造形は、テーラードジャケットにレイヤードしたフラップや、トップスの大胆なボートネックなど、ベーシックなアイテムに新鮮な表情をもたらしている。
このようにヴェインは、ささやかな大胆さでもって、ベーシックなメンズウェアの表情にふとした「見慣れなさ」をもたらす。なぜだろう。写真が捉えるイメージには、そこに目を向けているにもかかわらず、意識に上らない細部がふと顔を出す。それはいわば、ささやかな細部でもって、明晰な意識を解体しようとするものなのだ。だからヴェインは、シャツのポケットを反転したり、ミリタリージャケットを光沢のある素材で仕上げたりと、ベーシックさをささやかな身振りでずらしているのだといえる。
何より、一瞬が織りなす表情の豊かさとは、風であり、光であろう。上述のように、ミリタリージャケットやカーゴパンツなどには、タフなファブリックの代わりに、流れるように光沢を示すファブリックを。曖昧な表情を示すオンブレチェックのシャツやトップスは、透けるように薄い質感でもって、空気を孕んで揺らめく造形を。リラクシングにのせられる、軽やかさと光沢という素材の繊細さが、衣服が一瞬ごとに織りなす〈いま・ここ〉の造形に目を向けさせるのである。