エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)の2024年秋冬コレクションが発表された。
「夜光」と銘打たれた今季のエンポリオ アルマーニは、月と星がきらめく夜空のもとで感覚的に捉えられた色彩を、フォルムや素材感を通して表現することを試みたという。そのコレクションはだから、ブラック、グレーやブルーなど、陽の沈んだ夜空を彷彿とさせるダークトーンを基調としつつ、時に鋭く、時に柔らかなシルエット、光の多面的な表情を引きだす素材で構成されている。
昼と夜とを比べるとき、光が辺り一面に充溢しているのが昼であるならば、夜は一見、星々の光が散りばめられた、黒々とした広がりに思える。いや、夜空は星の余白──むしろ「余黒」と言うべきか──ではない。昼のように光が充溢していないからこそ1点の光の瞬きを捉えることができるのならば、夜とは光を可能ならしめる場であり、逆に光は闇夜という広がりを顕在化させる契機となるのだ。
こうして、夜空と光は、ある種の対話的な関係に開かれる。夜空の色彩を捉えるとは、静謐なこの対話に耳を澄ますことでなくて何であろう。ダークトーンを基調としたテーラリングやドレスは、まさしく夜空と光とが織りなす協和音を、文字どおり具現化するものとなる。たとえば、ジャケットには光沢感のあるファブリックを採用し、明晰なラインを描くそのシルエットは、冬空を貫く光の澄みきった軌跡を彷彿とさせる。
夜空に広がる光とは、しかし、すっとまっすぐに進むばかりではない。夜の暗がりのなか、あたかも波打つようにして柔らかく広がる光もまたあるのではなかろうか。繊細なドレープを織りなすドレスやスカートは、こうした光の柔らかさを思わせる。細やかにギャザーを寄せた、アシンメトリックなキャミソールワンピースや、チュールを重ねに重ねたドレス、ファブリックを波のように連ね、ドレープを幾重と織りなしたスカートを、その例に挙げることができるだろう。
光を直接的に反映する特権的な要素が、素材にほかならない。上述のように、テーラリングやドレスに用いた光沢のあるファブリックをはじめ、身体のフォルムに応じて多様に階調を変えてやまないベルベット、柔らかく波打つシアー素材、光という純粋に視覚的な対象を豊かな手触りへと変換するフェイクファーやかぎ編みのニットなど、光の諸相を豊かに表現している。
夜空と光の対話を直接的に示すのが、抽象的なグラフィックを用いたウェアだろう。光沢のある素材で仕立てたテーラードジャケットには、ライトグレーにレッドやダークグレーの広がりを浮かべる。ドレスには、淡い色調のカンヴァスにさあっと絵筆を走らせるかのように、ピンクやブルーの色差を広げて。あるいはステンカラーコートなどには、ブルーとブラックを基調としたグラデーションをあらわすなど、ダークトーンを基調としたなかに豊かな色彩感を取り入れた。