映画『身代わり忠臣蔵』で主演を務める俳優・ムロツヨシにインタビュー。
大石内蔵助(おおいしくらのすけ)率いる忠義の赤穂浪士達が、亡き殿・浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)の仇である吉良上野介(きらこうずけのすけ)への討入を成し遂げる姿を描いた時代劇「忠臣蔵」をベースに、“身代わり”という斬新なアイディアを加えた土橋章宏の小説『身代わり忠臣蔵』が実写映画化。ムロツヨシが主人公・吉良孝証とその兄・吉良上野介を演じる痛快時代劇エンターテインメントとなっている。
まず、明るく能天気な主人公・孝証と、冷徹な兄・上野介の1人2役を演じられた、率直な感想をお聞かせください。
演じ分けは必要だなと思いましたけど、本当に真逆の性格の2人。全くの別人格なので、お芝居することができました。演劇の世界だと、1人で主役から端役までいくつも演じることがあって、1人2役とは違えど受け入れられました。
そうなのですね。歴史上の人物を演じるにあたって、普段の役作りとなにか違う部分はありましたか?
今回の「忠臣蔵」というお話が、フィクションとノンフィクションが混在していると言われています。元となるストーリーはあるけれど、兄の吉良上野介がどれだけ本当に悪い人間なのか、悪いということの解釈・定義がすごく難しいなと思いました。嫌な人の度合いは、監督とも話し合って役作りしていきましたね。
孝証はどうでした?
孝証は、もう本当に好きなように生きてきて、お金がないから人を頼ってしまうっていうどうしようもない人間なので(笑)。上野介との対比が濃く出るように意識して演じました。
フィクションより、実在した人物の方が演じやすいみたいなことはあるんでしょうか?
演じやすいってことはなかったですね。監督が、僕が考えていた“上野介のいやな人”度合いより「もっとやってくれ、もっと遊んでくれ」っておっしゃってくださったのをすごく覚えています。
そのシーン、面白く拝見させていただきました!(笑)
永山瑛太さんとの20年ぶりの共演でも話題を集める今作。20年前と現在で、印象の変化はありましたか?
彼への印象は変わらないですね。20年前に「お芝居とは」なんて、若気の至りで恥ずかしい話題で飲んでたこともありますから、根本の部分は変わっていないです。
元から親しかったのですね。
仲がいいからこそ、自分たちと役を重ねちゃいけないっていう塩梅は難しかったりします。ただ“永山瑛太と芝居を作る”という意味では、 慣れ合いはなく、いい意味での緊張感がありました。
もちろん緊張のない共演者の方なんていないのですが、なんと言えば良いのだろう。演技にはいろんなやり方があるけれど、お互い相手のセリフを受け止めて、次のセリフへ繋げることを大事にしてることを確認できました。あと、どれだけ迷惑かけてもかけられてもいいんだよっていう雰囲気があったのもよかったですね。
その信頼関係は安心できますね~。
はい、芝居上での信頼関係が改めて再確認できました。本人とは、こんな話していないですけどね(笑)。
すごく素敵な関係性です!ちなみに…劇中の孝証と大石のように、ムロさん自身が敵やライバルと仲良くなった経験はありますか?
人生で!?ライバルとは言わないですけど、恥ずかしながら、お酒の席でちょっと言い合いになっちゃった方のほうが仲良くなったりするっていう経験はあります。 若い世代の方たちには理解されないだろうけど…(笑)。ライバルってこの世界、あんまりないからなぁ~。
役者さん同士で意識し合ったり、ライバルという関係値はあるかなと思いまして…!
そうですね。僕、オダギリジョーがライバルだと思ってます。実は同い年なんですよ。でも彼は僕をライバルだと思ってない…。いつでも彼とは仲良くなる自信があるんですけどね。これからも同じ作品に出ることを目標にしています。
まだ共演されていないのですか?
それが、ドラマで1度共演してます。全10話のドラマだったんですけど、4話ぐらいから僕が「ジョー」って呼び始めたんですよ。オダギリじゃなくて「ジョー」と。そしたら「ちょいちょいジョーって言ってますけど、僕認めてませんよ。」って言われました。僕の中での彼の名言です(笑)。
距離感がありますね(笑)
そうなんです、いつでも彼とは仲良くなる自信があるんですけどね。だから、ライバルは“ジョー”です!
演劇の世界に踏み込んで27年以上キャリアを積み重ねる、実力派俳優・ムロツヨシ。明るくコミカルな役柄からダークなヒール役まで、どんな人物にもなりきれる彼の思考に迫る。
『身代わり忠臣蔵』は“時代劇エンタメ”というジャンルでしたが、 ほかにも一風変わった設定やコミカルな作品に出演されている印象があります。ムロさんが演じられる上で、意識されていることがあれば教えてください。
突拍子もない設定は演劇、特にコメディの世界でよくあるので、正直あまり深く考えないようにしています。この世界にありえないってことを度外視できちゃう脳みそになってしまっているので(笑)。
なるほど。ムロさんの真っ直ぐな姿勢が作品にも反映されている気がします…!
“こんな人はいない”じゃなくて、“こんな人はどっかにはいる”だろうって考えなので、結構どんな設定でもすんなり受け入れられちゃうかな。辻褄が合わないときだけは、現場でちゃんとお伝えするようにしています。