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ドレスドアンドレスド 2024年春夏コレクション - 宙吊りの自画像

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ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)の2024年春夏コレクションが、2023年9月2日(土)に発表された。2022年秋冬シーズン以来に続いて、今季のビデオプレゼンテーションにおいても、音楽はダムタイプ(DUMB TYPE)の山中透による。

マラルメ、白と黒の星座的附置

ドレスドアンドレスド 2024年春夏コレクション - 宙吊りの自画像|写真5

小鳥の優しいさえずりが重なりつつ始まるビデオプレゼンテーション、そこで言葉が厳として発せられる──「Un coup de dés jamais n'abolira le hasard(さいころのひと振りは決して偶然を廃さないだろう)」。2023年春夏シーズンのテーマを引き継ぎ、「Self-Portrait #2」と銘打たれた今季のドレスドアンドレスドは、19世紀後半を代表するフランスの詩人ステファヌ・マラルメ、特に彼が最晩年に残した詩篇『骰子一擲』──冒頭に引いたテクストは、この作品の謂いである──への関心のもと、ふたたび自己の輪郭をなぞってゆく。

ドレスドアンドレスド 2024年春夏コレクション - 宙吊りの自画像|写真12

マラルメの『骰子一擲』に、いわゆる散文的な筋書きが明確にあるわけではない。むしろこの詩篇は、こうした線状的な進行を解体するものである。すなわち、白いページの上には、大小さまざま、異なる活字で繋がれた種々の語が、一切の句読点なく配置されている。11面にわたる見開きには、「さいころのひと振りは/決して/偶然を/廃さないだろう」という文字が4分割されてまたがる。そして、詩篇中最大の大きさで印刷されたこの主題のまわりに、難船、さいころを振ることをためらう船長、あるいは星座といった副次的なモチーフが、あたかも副旋律のようにして組み入れられているのだ。いわば、白地に黒く描きだされた星座である。

ドレスドアンドレスド 2024年春夏コレクション - 宙吊りの自画像|写真7

そもそもマラルメにとって、文字を書くという行為は、それが白い紙の上に黒いインクの跡を残すことであるように、人間の奥深くに微睡む暗黒に由来するものであった。マラルメはこう書いている──「インクの壺は、一つの意識のように透明なクリスタルガラスだが、底には、暗黒の色をした滴が溜っている。この暗黒の滴というものが、何か或るものが存在するということに関係があるのだ」(マラルメ「限定された行動」松室三郎訳より)。だから白いページの上では、人間のある姿が、黒々と開示されることになる。何よりも黒い文字は、白い紙の支えなくしてありえない。

ドレスドアンドレスド 2024年春夏コレクション - 宙吊りの自画像|写真11

ドレスドアンドレスドが、とりわけブラックとホワイトの無彩色を基調にしていることは、衣服の研ぎ澄まされた造形へと真摯に向き合うという志向にほかならないだろうが、今季、それをマラルメの詩篇に引きつけてよいのかもしれない。ブランドを象徴するシングルブレストやダブルブレストのジャケット、ロングコートはブラックでまとめる一方、シアー素材のドレスはホワイトないしブラックをベースに、『骰子一擲』の詩句を、ブラックの刺繍でのせている。ここには、白と黒の厳しい緊張関係がある。

ドレスドアンドレスド 2024年春夏コレクション - 宙吊りの自画像|写真9

先に、『骰子一擲』とはいわば、白と黒とが織りなす星座だと言った。いま「星座」に着目するのならば、それは星々が元から何らかの意味を有しているのではなく、幾つかの星おのおのが持つ輝き、それらのあいだの関係に応じて、何かしらのイメージが浮かび上がるものである。「語群は、あたかも宝石を連ねた玉飾りの上における灯影の一条の連鎖のように、相互間の反射反映によって点火される」(マラルメ「詩の危機」松室三郎訳より)──白い紙の上の黒い染みにすぎない文字、これら語群の絶えざる反射と反映が、虚像を生みだすのだ。

ドレスドアンドレスド 2024年春夏コレクション - 宙吊りの自画像|写真6

語群が互いに反射し合う詩の空間において、「星座」が現実とは異なる位相に立ち現れるなか、なおも現実に身を置いてこれを語る詩人は限りなく無に近づく。存在と虚無のあいだに宙吊りにされた主体は、それでもなお自らの存在を確かめる。鏡。確かなフォルムを支えるウールギャバジン、着るにしたがって身体に馴染んでゆくコットンモールスキンという2023年春夏シーズンの素材を引き継いで、研ぎ澄まされた佇まいに、しかしボクシーなシルエットでささやかな抜け感を漂わせるよう仕立てたテーラリングは、こうして執拗に自身の輪郭をなぞるのだ。

ドレスドアンドレスド 2024年春夏コレクション - 宙吊りの自画像|写真3

もう一度シアードレスに戻るのならば、これは半透明な素材でもって身体を透かして見せ、その像を二重化する。あるいは、きらめきを帯びたトラウザーズは、艶やかなサテンを用いつつも独特の凹凸感を示し、確かな肌理の実在と波打つ光沢の表情のあいだに漂う。『骰子一擲』見開き9ページ目の語句を拾うと、こう読める──「なにひとつ/起こらないだろう/場所しか(RIEN / N'AURA EU LIEU / QUE LE LIEU)」。白いページという場の上に「無(RIEN)」の文字が黒々と立ち現れるように、今季のドレスドアンドレスドは、存在と虚無のあいだに宙吊りにされた自画像を、震えるようにしてなぞっているのではなかろうか──この黒さこそ、「何か或るものが存在するということ」に関係していると、マラルメは語っているのだから。

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