恋人同士の関係性を描いていく中で、インティマシーシーン(※1)が登場します。専門のインティマシーコレオグラファー(※2)が監修を手がけたそうですね。
(※1) 性的な描写を含むシーンのこと。
(※2)「インティマシーシーン」における動きや所作を監修するコレオグラファー。
鈴木:インティマシーシーンを演じる上で、相手への愛情やドキドキする気持ちの面では、男女の関係と同性同士の関係性の間に違いはほとんど無いと感じたのですが、男性同士と男女ではやはり身体的な構造の違いがあります。例えば男性同士の場合は、お互いのポジションに関しても同意が必要になるので、そういったことを確認するための一瞬の表現も入れなければなりません。より現実に即した場面になるように、専門のコレオグラファーさんが客観的に提案や指摘をしてくださったのは非常によかったと思います。
愛情を伝え合えるような自由度は残しつつも、段取りを進めていく中で違和感があればすぐに教えていただける、という環境は恵まれていたと感じています。
宮沢:『エゴイスト』に限らず、体を重ね合わせるシーンは役者同士の同意も必要ですし、監督や実際に撮影するカメラマンなど、皆の理解があってこそ成立します。また、皆に見られている中で演技をしなければならない役者にとっては、負担のかかるシーンでもあります。
間違った表現になっていないか、どう表現すれば良いのか、細かくコレオグラファーさん指示してくださったことで芝居の自由度が増したような感覚もありました。安心感があるからこそ、目の前のシチュエーションに全てを注ぎ込むことができたと思います。過去の日本の作品ではインティマシーシーン専門のコレオグラファーが入っている作品は限られますが、今後は必ず必要なポジションになってくるはずです。
鈴木:インティマシーコレオグラファーとはまた異なる、インティマシーコーディネーターさんがいらっしゃる現場にも参加したことがありますが、“シーンのクオリティが上がる”と言うのは本当に実感するところです。
僕はこういった専門家の方が入らない環境で演技をしてきた世代なので、正直「気持ちだけで演じて」と言われれば演じることもできます。でも、気持ちだけで演じた結果が良いシーンになるかどうかはまた別ですよね。自分が思いきり、感情をぶつけるためにはお互いのNGラインをわかっている必要があるし、映画に限らず、現実の世界でも相手が自分を受け入れてくれているという、ある種の自信や喜びがあるからこそ、愛を交わすことができるわけですよね。
コーディネーターさんがいらっしゃると、その安心感のある状態まで近づけることができるんです。今後は、インティマシーコーディネーターや、性的マイノリティの表象に対して監修をしてくださる方が入る現場がより増えていくのではないかな、と考えています。
14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分を隠して鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、自由な日々を送っている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである母を支えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の母も交えながら満ち足りた時間を重ねていく。亡き母への想いを抱えた浩輔にとって、母に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、あまりにも残酷な運命が押し寄せる。
【作品詳細】
映画『エゴイスト』
公開日:2023年2月10日(金)
出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明、阿川佐和子
原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子
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