ただ、家表法の規制対象は、あくまで品質タグだけだ。どういうことかというと、「商品名」というような形で「カシミアニット」と記載したり、店のスタッフが「これはカシミアですよ」と説明したりする場合には、規制は基本的に働かない、ということだ。
「商品名」については、家表法の規制は基本的に働かない。だからと言って、もちろん「商品名に『カシミア』と入っているこのような表記は信用できない」という訳ではない。
法律的に野放しという訳ではなく、その他の法律が働く場合もある。
刑法:相手を騙してお金を払わせたら法律違反(詐欺罪)
不正競争防止法:商品の原産地や品質について誤解させるような表示をしたら法律違反
景品表示法:実際より著しく優良だと誤解させるような表示をしたら法律違反
しかしこれらは、「カシミアでないのにカシミアとタグに表示したら法律違反」という、家表法の明確さに比べると、どうにも不明確な法律だ。例えば「うぶ毛ではないけど、カシミア山羊からとったウールなんだから、『カシミア』と言っても騙してないし誤解でもない」などと反論された場合、「法律違反」と断言できるかには、少し疑問がある。
法律の仕組みを踏まえると、信用すべきは表示タグであり、商品名やスタッフの説明ではない、ということになりそうだ。店員に「カシミアのセーターですよ」と説明され、ラックに「カシミアニット 9,800」などと書いてあったとしても、念のため表示タグを確認してみることが大事、ということだ。
ただ、冒頭でも説明したように、一言で「カシミア」といっても、その質は、細さ・長さ・白さによって異なる。そして、これらの基準によって原毛は6等級に分類されている。最も良いものは、糸に加工する段階で使う水にもこだわり、原毛のままスコットランドに輸出される。スコティッシュカシミアと呼ばれ、ルイ・ヴィトンやシャネルなど、名だたるメゾンで使用されているものだ。また、スーパーホワイトと呼ばれる高グレードのものは中国国内で糸に加工された後、ロロピアーナやアニオナといったイタリアの高級服地メーカーなどに輸出される。
これらの最高グレードの生地は、小売価格で1メートルにつき4~10万円にもなるものだ。例えば、コートをつくる場合、約5メートル程度の生地を使う。となると、最上位のヨーロッパブランドのカシミアコートは生地代だけで20万~50万。製品化されたあとの値段はギョッとするものだが、たどっていけば納得できる理由があるみたいだ。
同じカシミアでも、その品質は「ピンキリ」だ。カシミアの品質は値段に比例することを理解した上で、自分の手で触って、またはブランドやショップを信頼し、納得した上で買うしかないのだ。
そして、だからこそ、ブランドやショップが消費者の「信頼」を裏切らないよう、また、万一目の届かない国外で「偽装」が行われる場合に備えたチェック・監視体制などを作るよう、家庭用品品質表示法などの法律が目を光らせているのである。
執筆:法務博士 河瀬季(tokikawase.info) & 同 西村美香