ポール・スミス(Paul Smith)の2014-15年秋冬メンズコレクションの舞台は、円形の闘技場のような佇まいの歴史あるパリの証券取引所。かつては札束が飛び交っていたであろうこの場所だが、ステージの下の螺旋階段から上がって来たのは、スーツでびしっとキメた証券マンではなく、中東文化に傾倒するユルい雰囲気のロッカーたちだ。
伝説的ロックバンド、ドアーズ(The Doors)の気だるい音とともに、ペルシャ絨毯のランウェイに最初に足を踏み入れたのは、1960年代のロッカーを思わせるセミロングのウェーブヘアの男。
胸元を2つのネックレスで飾ったゴマ塩のスウェットシャツ、ルーズなシルエットのウールパンツの上に、音符とキリム柄のジャカードのチェスターコートを羽織った姿は、カリスマと悲しみを同時に背負っているようで、27歳の時にパリで早逝したドアーズのボーカリスト、ジム・モリソンを連想させる。
その後も、服が音を奏でるようなルックが続く。なかでも目立つのが象徴的な音符のモチーフ。毛足の長い生地の中にワッペンのように音符がちりばめられたコート、キリム柄の中に音符が整然と配置されたガウン風コート、音符が剥がれかけたような雰囲気のプルオーバーのスモックなど、音符を印象的に配置したアイテムに目を奪われる。
ジャケットの襟を立ててスタンドカラー風に着こなしたセットアップスーツ、首もとが大きく開いたハイネックのカットソー、タイトなシルエットのレザーパンツからも、60年代の空気が色濃く漂う。
カラーパレットはブラック、ベージュ、ネイビー、グレーを基軸に、着古したような風合いの中間色(ワインレッド、薄いパープル、色褪せたブラウン)を効果的に使っている。数奇な短い生涯を送ったジム・モリソンの人生のように、全体的には華やかでありつつもどこかもの悲しげな雰囲気があるが、故郷であるフロリダを思わせるピンクフラミンゴとヤシの木のセーターだけはなぜか底抜けに明るい。
この2ルックはドアーズになる前の子供の頃のジムを表現しているのかもしれない……。昨年亡くなった同じドアーズのレイ・マンザレクの特徴的なオルガンの音色のように、じわっと心の中に沁み入ってくるようなコレクションだった。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)