エルメネジルド ゼニア(Ermenegildo Zegna)の2014-15年秋冬コレクションはそれ単体で映像作品として通用するようなクオリティの高い演出で幕を開けた。
映画館のような会場の中央には大きなスクリーンがあり、宇宙空間を漂うような音が会場内に木霊し始めると、眼前にやおら緑色の惑星が現れた。そこから次に向かうのは宇宙。銀河鉄道999のように様々な星や浮遊物を避けつつ見えてきたのは青い地球。大気圏を抜けると、そこで映像がグーグルアースに切り替わり、ミラノのショー会場に不時着。と同時にモデルがスクリーンの横から姿を現した。
ファーストルックはグレーのスーツとシャツにステンカラーコートを肩掛けしたワントーンのコーディネート。ベーシックなスタイルだが、素材と仕立ての上質さがストレートに伝わってくる。その後は、グレー、ネイビー、グリーン、ワインレッドを基調に、チェックを織り交ぜた一見では”普通”のルックが行進。しかし、良く目を凝らしてみると、そこには匠の技による驚きのギミックが隠れている。コートからマフラーを垂らしたルックは、実はコートの襟とマフラーが相思相愛のカップル(くっついて離れない)。タートルネックセーターにVネックセーターを重ねて上からマフラーを巻いたワントーンのコーディネートは、一枚のニットなのだ。トロンプイユの表現方法は多々あるが、これほどまでに“緻密な嘘"は記憶にない。
また、ジャケットの上にショート丈のブルゾンやニットを重ねたスタイリングは、言葉に置き換えればやや強引。しかし、おそらく緻密な計算の中で、重ね着を前提に寸法が採られているので全く違和感がない。トラウザーは程よい太さだが、裾の処理はかなり長めの2クッション。ダブルの折り返しの上側には、細めのパイピングを施している。
アイテムで目立ったのは、身幅が広めで少し肩の落ちたシルエットのモッズコート、ショート丈のMA-1、リバーシブルのコート、2つボタンのダブルブレストのジャケットなど。いずれも遊び心満載だが、素材と縫製が最上級なので、遊びが魅力に昇華している。
デザイナーに就任して2シーズン目となるステファノ・ピラーティが掲げたテーマは「シティ アンド ネイチャー」。ピラーティは「ゼニアにとって、自然とは力であり、進歩と探求を意味している」とプレスリリースで語っている。そして、今回のコレクションの着想源となった科学的経路を提唱したフィオレッラ・テレンツィ(天文学者、フロリダ国際大学天文学部教授)と、創造される“曲線"を構築したニール・デグラス・タイソン教授(ヘイデン・プラネタリウム地球宇宙ローズセンター館長兼アメリカ自然史博物館天文物理学部リサーチ・アソシエイト)へ感謝の意を表している。
そして私もステファノに敬意を表したい。遠くから目を凝らして見たけれど、こんな風に思えるショーはそうそう出会えるものではないから。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)