マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi) 2022-23年秋冬コレクションが発表された。黒河内の故郷である長野を舞台に、年間を通じて「Land」をテーマに掲げたコレクションも、いよいよクライマックスへ。今季は“山のテクスチャー”と“縄文”をキーワードに、複数の時層を往還する旅へと誘う。
生まれ育った長野の土地を探求し続けてきた1年間。季節は気づけば秋へと移り変わり、晩秋の山々はグリーンからイエロー、オレンジの美しいグラデーションであたり一面を覆っていた。この“輪郭のない”山々のテクスチャーをテキスタイルで再現するため、今季はアウトラインを一切描かない新しいアプローチを試みたという黒河内。山の色が糸となってとろけていく感覚をたよりに、よく見ると山を構成する多色で形成された、奥行きのあるカラーがコレクションに溢れている。
例えばキーカラーとなるカーキは、黒河内がみた景色のスケッチや写真をもとに色を抜き出した後、それらを絣染し起毛させることで、紅葉の景色を連想させる温かなコート地に。また黒河内のミクロな視点は岩肌を彩る“苔”にも向けられ、クラシカルなドレスのカフスやショルダーを覆う、繊細な立体刺繍として生まれ変わっている。
秋の野山をめぐる間も、黒河内の思考は深く潜り続け、やがて長野の土地で1万年以上続いた縄文時代の歴史をたどることになる。中でも特に黒河内の心を大きく揺さぶったのは、縄文中期の土器の文様。煮炊きをする道具を超えた過剰なまでの美しい装飾は、コレクションの中で様々な布地と共に表現されている。
うねるようなカーブプリーツのドレスは、ボディ全体を文様が包み込むかのよう。また土器の表面を覆う<隆帯唐草文>に着想した躍るようなパターンのアウターやスカートは、シルク混の三重織により、揺らぎや筆致までも正確に再現したこだわりのピースだ。
そしてブランドを象徴するコード刺繍は、今季のムードとリンクした新たな表現で再解釈。苔のように起毛した靴紐を編みたて、文様を描きながら刺繍したドレスは、プリミティブな表情でありながら、繊細なカッティングとアシンメトリーなラインから現代らしいエレガンスを感じさせる。
一方で今季は、黒河内の幼少期の大切な思い出である“スキー”の要素も取り入れられている。特筆すべきは、白馬の雄大な雪景色の絵織作品を落とし込んだニットウェア。ブランドにとって、作家の作品を洋服の上に再現することは初の試みであり、原作の持つ手作業の温もりを、豊かな糸地と共に鮮やかに描き出している。またスキーゴーグルを連想させるキャットアイ型のサングラス、蛍光カラーのニーハイソックスなど、スキーを連想させるスポーティーなアクセサリー使いも印象的だ。
そのほか今季も2022年春夏コレクションに続き、キジマタカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)とコラボレーションしたクロシェハットが登場するほか、京都にアトリエを置く「履物関づか」と初タッグを組んだ“ベルベットの足袋”と“厚底の草履”が足元をユニークに彩る。また耳元には、ガラスのような透明度を持つ長野原産の上質な“黒曜石”に着想したイヤーアクセサリーをオン。眩い煌めきを放つその様は、長野の凍り付く冬景色の中で輝く、美しい氷柱の姿とも不思議とリンクする。